10 六歳 エルリィ
ご飯を食べ終えると、ミナットの場所へと急いで向かった。
修道院の奥に誰も近寄らない医務室がひっそりと存在している。ここにはミナットしかいない。一年ほど前から彼はここで過ごしている。
急に肺が痛いと言い出して、呼吸困難になった。少し落ち着いたが、ベッドから出ることはできない。少しでも運動をすると、また息が苦しくなってしまうらしい。
症状的にウイルスによっての感染病ではない。肺が押しつぶされるような感覚らしい。それに伴い、筋力も低下している。
どうしてそうなったのか、原因ははっきりと分かっていない。
その不明瞭な病気に孤児たちは恐れて近寄ろうとしない。彼の面倒を見ているシスターは別。
もちろん、私はミナットの面白い話を聞きに毎日医務室に足を運んでいる。
ミナットとは私が物心ついた時から一緒だった。
彼は私よりも八歳も年上だ。理知的で聡明なのに、無邪気で子どもっぽい。お互いに一人でいることが好きな者同士だった。そんな二人がいつの間にか仲良くなっていた。
ミナットが病気になる前は、二人でよく森を探索した。ミナットは修道院で一番の物知りで、森のことをたくさん教わった。
辺りを見渡しながら歩き、「これは毒キノコだ」とか「あの木の葉っぱは解毒剤にもなるんだ」などと語ってくれた。
一体どこでそれほどの知識を蓄えたのか、私はあえて聞かなかった。
知ってしまえば、ミナットのミステリアスな魅力が少し欠けてしまうと思っていたから。
「ミナット? 起きてる?」
私は医務室を覗き込むようにして、ミナットに声をかける。
この部屋は薬草の香りが満ちている。ここに置かれている薬草はすべて私が摘んできたものだ。全て試したが、ミナットの回復の兆しは見えなかった。
「起きてるよ」
ミナットの穏やかな口調に私は彼が寝ているベッドの元へと近寄る。
左に三つ、右に三つと錆びたベッドが並べられており、その左側の一番奥のベッドにミナットは体を起こして私の方を向いていた。
窓から差し込む月光が医務室を照らし、ミナットは「待ってたよ、エルリィ」とふんわりと微笑む。
耳下まで伸びた柔らかな茶髪、中性的な顔立ち、細い身体。
ミナットは片耳にだけ髪をかけており、その耳に雫型の緑の石がついたピアスをつけている。このピアスは母親の形見だそうだ。
窓際にはひびの入った花瓶に入っているシアネスが目に入った。
「ちゃんとシアネスを食べた?」
私はミナットがいるベッドの隣に立つ。
「うん、シスターカエラがお湯につけて用意してくれたよ。エルリィがとってきてくれたんだってね、ありがとう」
「……体調はどう?」
「シアネスのおかげで少しましだよ」
「本当?」
自分の声が少し大きくなるのが分かった。
私の反応を見て、ミナットは柔らかな表情を浮かべて私の頭を優しく撫でた。彼の厚みのない細い手に私はキュッと心が締め付けられた。
……ミナット、また痩せた。
「本当だよ。エルリィのおかげだね」
「明日はもっとたくさんとってくるね」
ミナットは何も言わずに、どこか寂しそうに笑みを浮かべるだけだった。
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