1 あの予言
『私の力を受け継ぐ者は…………この国を滅ぼすだろう』
数百年前に、火あぶりで処刑された大魔女が最後に言った予言がこれ。
高笑いを上げて消えちゃったらしい。煌めく粉となって舞ったとかなんとかって噂もある。
彼女の死に様よりも、予言の方が重要だ。この予言は未だにこのイフリック国で受け継がれて恐れられている。
実際のところは、恐れられてはいるが、忘れられてもいる。
なぜなら、この数百年間、ごく平和にイフリック国の人々は過ごしてきたからだ。今では「あの予言」と呼ばれて、おとぎ話のような存在になっている。
まだこの世には魔女は残っている。随分と減ったらしいが、絶滅はしていない。
もう、今の時代は魔女を捕らえて処刑するなんてことはない。魔女が忌み嫌われる時代はとうの昔に終わったのだ。
残った魔女の人数は正確には分かっていないが、数名と言われている。
……ただ、大魔女がいなくなった魔女たちは途方に暮れて、世界各地へと散った。
大魔女はいわば魔女たちの道しるべ。大魔女を心の底から尊敬し、慕っていた。そして、魔女たち皆が大魔女について行っていた。
そんな人物がいなくなったのだ。魔女たちの団結力も弱まるだろう。
大魔女を殺した人間達に魔女たちが復讐を考えなかったかって?
もちろん脳裏には過っただろう。だが、大魔女は魔女たちに人間の命を奪うことを禁止していた。
そこに関しての明確な理由は分からない。魔女たちは大魔女の指示に従うだけ。破ることは許されない。その忠誠心だけは確かだった。
大魔女が殺されたことに対する怒りや恨みはあっただろうが、魔女たちは人間に対して何もできずに、ただ己の命を守るために身を隠すことに専念した。
……そして、今では魔女たちの存在は稀有なものとされ、人々から憧れの眼差しを向けられている。
時代によって魔女に対する待遇はこうも違うのかと笑ってしまうほどだ。
まだ、大魔女になれる魔女は存在していないけれど……。
数百年間、それほどの力を持つ者が現れなかったと言われているのだから、もう魔女たちの間でも諦めモードになっていることだろう。
まぁ、とにかく、長い年月を経て、魔女の立場は守られたのだ。めでたしめでたし。
そして、この国には王宮で働く一人の魔女がいる。彼女の存在はとても貴重だとされており、神秘的で美しい魔法は国中を魅了していた。
魔女は王族に仕えさせることによって、国王はその権威を民衆に見せつけている。
国民に寄り添う魔女は愛されており、かつての魔女が受けた扱いとは大違いだった。魔女の下で働きたいと多くの志願者が国のあちこちから集まった。……が、魔女は誰一人として助手を採用しなかった。
そう、これはそんな魔女の物語……………………ではない。
残念だけど、王宮で働く孤独な魔女の話がいいなら、違う場所に飛んでちょうだい。
これはイフリック国の西の端にある小さな町――シュレス町に住む田舎娘の物語。




