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沈黙の鏡

作者: みみみみみ
掲載日:2025/10/19

森の奥で、鏡を見つけた。

苔に沈むように置かれ、ひとすじの光だけを抱いていた。


覗けば、姿は映らない。

代わりに、心の色がゆっくりと滲む。

それは、誰のものとも知れぬ深い揺らぎだった。


少年は友達とともに鏡を街へ持ち帰り、

古びた店の片隅に小さな木箱を並べた。

“心の相談屋”。

声を潜めて来る人々は、光を信じていた。


けれど、少年は知っていた。

鏡に映るのは、他人の心だけではない。

覗くたび、ひそやかに、自分まで透かされてゆく。


ある夕方、母親が四人の子を連れて現れた。

疲れを隠せぬ眼。握られたままの財布。

「家のお金が消えたの。鏡で、誰がやったのか見せて」


子どもたちは順に鏡の前に立った。

長男は藍、次女は透きとおる青。

三女にはほの白い光があった。

末っ子の前で、鏡の奥が微かに濁った。


小さな黒が、藍の底に落ちる。

母親が息を呑む。兄たちが顔を上げる。

「やっぱり、お前だ」

「ちがう」

言葉の衝突が、部屋の空気を冷たくした。


少年は何かを言いかけたが、声にならなかった。

末っ子が泣き、やがて掠れた声で「ごめんなさい」と言った。

母の肩が静かに沈む。

鏡の光が、一度だけ瞬いた。


夜。

友達が小さくつぶやいた。

「あのとき、兄さんたちの光も、少し濁ってたね。」


少年は答えず、ただ鏡を見た。

自分の色が、わずかに影を含んでいた。


翌朝、母親がひとりで訪れた。

「お金、見つかりました」

それだけ言って去っていった。

その背に、夜明けの光が静かに崩れていた。


少年は鏡に布をかける。

鏡は真実を暴かない。

映すのは、恐れと、罪と、沈黙。


布の下で、ひそやかな光が脈を打った。

それは音にもならず、

少年の心の奥で、

水底に沈む鈴のように、遠く響いた。

この物語は心をテーマに考えました。読んでいただきありがとうございます。感想をいただけると嬉しいです!

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