表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
抗うものたち ~彼女が魔王になった理由~  作者: 浮田葉子
第4章 呪う言葉と祈る歌
36/121

第6話 八つの台座

 八つの台座、それら全てを暴き立てる。

 その上で破壊するのか、もしくは起動させるのか。

 いずれにせよ、すべてを把握する必要がある。


 そうすれば生命の大樹(ヴィヴァルボル)との対話が叶う可能性がある。

 推測の域を出ない話ではあるけれど、一縷の望みに賭けるほか無く……。


 アムルの身に宿る呪われし力(マレフォルティア)

 それが、プレケリア――願いであり、想いであり、歌――でもあるとするならば。


 同じ根を持つその力は、かつて問い掛ける人(デマンダー)と呼ばれた者たちと、同じ資質をアムルに授けたのかもしれない。


 彼らは大樹に問い掛け、答を得たという。

 ならば、自分にも、同じことができるかもしれない。


(たぶん、だけど……)


 考えていても始まらない。

 アムルは前を見据えた。


 どれほど慎重に仮説を組み立てたところで、それは仮説に過ぎないのだ。

 現実は行動の中にこそ現れる。

 行ってみないことには、成してみないことには、何もわからぬままである。


 アムルは不定芽(ふていが)の見せた記憶をなぞる。

 八つの台座のひとつ。聖なる台座(ヴィヴァルターロ)の場所ははっきりとわかる。

 何せこの目で見た場所だ。あの日、パンドラが身を捧げた場所だ。


 ――忘れるはずもない。


 聖都アルセリアの大聖堂。その露台(バルコニー)

 生命の大樹(ヴィヴァルボル)の足許に。


 残りの七つはどこだろう。大まかな場所はわかるのだけれど。

 台座によって描かれた八芒星。それを辿って探すしかないだろうか。


 アムルは腰の(かばん)に手を伸ばした。

 そこには小さな旅装の鞄が、元からそこにあったかのように納まっている。

 鞄の蓋を開け、中から一枚の地図を取り出した。


 不思議な話だが、この鞄やその中身――記録の詰まった帳面(ノート)やペン、ほかの細々とした小瓶など――は、アムルが風の姿を取っている間は完全に“消える“。

 消失した、というよりは、一時的に世界から除外されている、と言った方が良いだろうか。

 再び人の形を取ると、何事も無かったように現れるのだ。


 仕組みはアムルにもわからない。

 ただ、肉体と魂が「風」と「人」とを行き来するように、所持品もそれに紐づいて存在しているようで。

 呪われし力(マレフォルティア)の影響か、世界霊魂(アニメスフェーロ)の影響か。

 理屈はともかく便利で良い。


(……なんか、まだ慣れないけども)


 アムルは鞄から取り出した地図を広げた。

 学び舎(ヴィラリア)で学んでいた時に書き足した、印や書き込みがしっかりと残っていた。

 それに、忘れられた祠や神殿などの、訪れた場所の記録も。


 記憶と紐づいているのだろうか。

 いずれにせよ便利でいい。


 アムルは円規(コンパス)を取り出し、薄紙に大きく円を描いた。


「もう少し大きいかな……?」


 微調整しつつ、八方位の羅針図を引いて。

 その北を聖なる台座(ヴィヴァルターロ)に据えた。


 この不定芽(ふていが)から一番近い台座は、破壊と抵抗を司る炎の台座(モルカリーノ)だろうか。


 その位置はシナヴェル砂漠を指している。


 シナヴェル砂漠。

 水神サリアニスの嘆きの地。

 かつてこの地には七つの泉が湧き出していたという。

 しかし、人の傲慢と裏切りが、サリアニスを深く傷付けた。

 そしてサリアニスは、涙を流しながら、すべての水を地の底へ沈めた。

 今も風が吹く夜は、サリアニスの泣き声が聞こえるという。


 その嘆きの地に、破壊と抵抗を司る炎の台座(モルカリーノ)を設置したのは皮肉というべきか。

 それともその出現こそが、サリアニスの嘆きの引き金となったのか。

 真相を知る者は、いない。




 炎の台座(モルカリーノ)は驚くほど容易く見つかった。

 アムルの抱く怒りに、強く反応したのだろうか。

 ここは破壊と抵抗を司る台座。今のアムルに、最も相応しい場所なのかもしれない。


 赤黒く輝く石で形作られたその台座は、炎のように激しく揺らめいて見えた。

 砂嵐が吹き荒れる。

 肌を打つ砂塵が痛い。だがアムルは、そのまま実態を保ち続けた。


 ただ、強く、ひたすらに。炎の台座(モルカリーノ)を睨み付ける。

 胸の奥に渦巻く怒りは世界に対するものか、それとも自らの無力さへのものか。

 アムルにはわからなかった。

 けれどそれらすべてを内包して、アムルの眸は強い願いに燃えていた。

 ただひたすらに、パンドラを想う。


 ――世界に抗い、仕組みを壊すか。問い掛ける者よ。


「世界に抗っても。世界を壊してでも。わたしはパンドラを取り戻したい」


 怒りに満ちた、けれど静かな返答に、炎の台座(モルカリーノ)は笑ったように見えた。

 台座が笑うはずがない。だが、アムルにはそう()()()


 炎の台座(モルカリーノ)は激しく揺らめき、そして。

 炎の柱を噴き上げて。自らを崩壊させたのだった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ