表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
抗うものたち ~彼女が魔王になった理由~  作者: 浮田葉子
第4章 呪う言葉と祈る歌
35/121

第5話 不定芽の夢

 今となっては遥か昔のこと。

 生命の大樹(ヴィヴァルボル)に語り掛ける(すべ)が存在していた。

 問い掛ける人(デマンダー)と呼ばれる者たちは魂を媒介として、生命の大樹(ヴィヴァルボル)――世界――と対話し、(ことわり)と均衡を編み直す存在だった。


 彼らは「願いを叶える存在(もの)」として人々に敬われ、深い畏敬と共に祈りを託されていた。


 しかし人の営みが増すごとに、世界は少しずつ軋みを見せ始める。

 その歪みに抗うため、人々は歪みを正すことを願いとし、魂を以て世界へと呼び掛けた。

 それこそが、献身の儀(デヴォタリア)の原初の姿であった。


 だがエレクシア・ヴィアヴォルム――ヴィヴァ教団はいつからか、その真実を意図的に捻じ曲げ、儀式を支配の道具へと変えてしまった。


 願いは叶えるものから消費されるものへと形を変え、人の想いは祈りから犠牲へと堕ちていった。


 問い掛ける人(デマンダー)はやがて、選ばれし献身者(セリアン)と名を変えた。

 世界の意思に耳を傾ける――対話する者ではなく、一方的に奉仕し、捧げるだけの存在となった。


 そして予言を語り、選別する役目は教団に奪われた。


 (ことわり)と調和の対話は、いつしかただの神託の形式へと成り果てた。

 人の欲望と教団の支配によって……。


 世界は形を変えた。




 アムルは目を瞬いた。

 濃密な情報が、頭の中で渦巻いている。


 少し整理する時間が必要だった。


 ふつふつと怒りが湧いて来る。

 エレクシア・ヴィアヴォルムに対して、というよりは、支配と欲望に満ちたその時の()()への、灼熱の怒り。


 どくん、と。

 大樹の根がひとつ脈動した。


「願いを叶えて。生命の大樹(ヴィヴァルボル)。世界なんてどうでもいい。パンドラを返して」


 すべての力を、存在を懸けて、アムルは願う。

 けれど生命の大樹(ヴィヴァルボル)は応えなかった。


「……手順が必要か」


 世界は作り替えられてしまった。

 ヴィヴァ教に都合の良い教えが、世界に根付いている。蔓延(はびこ)っている。


 導師(アルコン)イアサント。

 憎いあの顔が目裏に蘇る。


 ヴィヴァ教にも、今は亡き至聖導師(グランダルコン)のように、善い人も居るのだろう。

 悪い人ばかりではない。それは知っている。理解している。

 けれど善い人ばかりではないもの確かだ。


 ヴィヴァ教の願いは世界を裏側から支配すること。

 この現界(ミディアルド)の秩序をその手に握り、意のままに操ること。


(やっぱり壊した方が良いんじゃないかしら、この世界)


 そんな存在のために、パンドラが奪われただなんて、許せない。

 信じたくも無い。


 けれど、現にパンドラは生命の大樹(ヴィヴァルボル)に呑まれてしまった。

 取り戻すには()()()手順を踏むべきだろう。


 世界には、というよりは主にユグド=ミレニオ国内には、八つの祭壇が存在する。

 調和と再生を意味する八芒星の形。

 その頂点のひとつにあるのが聖なる台座(ヴィヴァルターロ)だ。


 何故主にかというと、台座は他国にも(またが)って存在しているからである。


 生命の循環と献身を司る聖なる台座(ヴィヴァルターロ)

 光と黎明を司る始まりの台座(セラマトーロ)

 知と探求を司る選択の台座(アラフィオーロ)

 交魂と契約を司る贈与の台座(ネメルターロ)

 破壊と抵抗を司る炎の台座(モルカリーノ)

 影と沈黙を司る忘却の台座(リメンターロ)

 記憶と根源を司る根の台座(アルボランティス)

 旅立ちと帰還を司る終焉の台座(ソルミナーロ)


 以上の八つ。


 この不定芽(ふていが)から得られた情報は、(おおむ)ねそのようなものだった。


 生命の大樹(ヴィヴァルボル)御許(みもと)に存在する聖なる台座(ヴィヴァルターロ)以外は、封印された、または既に忘れられて久しい。

 ヴィヴァ教団の中枢には記録は残っているのだろうけれど、一般信者にまでは伝えられていない情報だ。


 アムルは少し考える。


 封印された台座を暴き出す。

 それにより、ヴィヴァ教団が握る秩序に揺らぎを起こせないだろうか。


(それとも、破壊した方が効果的だろうか)


 どちらにせよ、ひとまずはこの目で見て、触れて。

 確かめてからでなければ。


 不定芽を優しく撫で、アムルは囁く。


「あなたのことをもっと、教えて」


 けれど不定芽は、もう何も、語り掛けては来なかった。

 伝えるべきことは伝えたということだろうか。


 溜め息を吐いて、アムルは根の断面に凭れ掛かった。

 さて、次はどう動こうか。


「――でも、まずは上々。教えてくれてありがとう」


 不定芽は微かに揺れたように見えた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ