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抗うものたち ~彼女が魔王になった理由~  作者: 浮田葉子
第4章 呪う言葉と祈る歌
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第3話 ナハドラク

 そろそろ集落が近い。

 アムルは街道へと降り、旅装を(まと)った。


 思い描くだけで形が取れるのは便利でいい。


 馴染んだ形からはなかなか逃れられないけれど、と軽く吐息する。

 アムルが人の形を取る時は必ず、アムルのままの姿だった。

 亜麻色の髪。紫の眸。背格好は学生の時のまま。


 指名手配犯なのだから、顔くらい変えたいのだけど。

 生まれてからずっと、慣れ親しんだ形から逃れるのは、難しいようだ。


(この辺りまではまだ、手配書は回っていないはず……たぶん)


 アムルは外套の頭巾を被り直す。

 季節は夏。しかもこの辺りは湿潤な気候だ。


 蒸し暑いことこの上ない。


 ――呪われし力(マレフォルティア)の影響か、暑さ寒さを感じることはできるけれど、その感じ方はとても穏やかである。


 それでも流石に暑い。


 (そび)える山々は新緑に覆われ、昼でも薄暗いほどの密度で。

 木々の間からは蝉の声が絶えず響いてくる。まるで森が鳴いているようだ。

 山から流れ出る清流は村の脇を流れ、水音が耳に涼しい。


 草木の濃い匂いが駆け抜けた。視界が緑に染まる気がする。

 アムルは目を閉じ、天を仰いだ。

 閉じた瞼の裏が赤く透ける。


「おねーちゃん、旅の人?」


 子供が話し掛けてきた。

 ふと気が付くと、辺りの物陰から興味津々で覗いている視線の多いこと。


「そうだよ。旅の途中。こんにちは、今日は良い天気だね」


 笑ってみせれば、わーっと子供たちがアムルを取り囲むように走って来る。

 元気が良くて何よりだ。


「こんにーちはー!」

「あのね、あのね、今日お祭りなの!」

「おねーちゃんも、げいにんさん?」

「なにするのー?」


 わいわいがやがや。

 アムルは苦笑した。


「お祭りなの? 見ていってもいい?」


「どーぞ!」

「だめだよ、そんちょーさんに、きかなくちゃ!」


 きゃっきゃと騒がしい子供たちに気付いたのだろう。

 大人が一人二人とやって来た。


「おや、いらっしゃい。旅人さんかね」

「今日はお祭りの日だよ。見に来たんかい?」

「その格好じゃ暑かろうよ。衣貸してやろうか?」


 人のよさが溢れ出ている。

 アムルはまた、苦笑した。


「旅の者です。アムルと言います。はじめまして。お邪魔しても宜しいでしょうか」


 頭巾を外し、外套を脱ぎ、アムルは丁寧に一礼した。

 恰幅のいい婦人がにこやかに歓迎の意を示す。




 村長に挨拶し、祭の見学を許されたアムルは村人と同じような格好で輪に加わっていた。

 通気性のいい麻の服装は風を通し、とても涼しい。

 ベールのように被った頭巾も麻だろう。

 巻き方がわからず四苦八苦していたら、同じくらいの年齢の少女がきれいに被せてくれた。


 ――少しだけ、パンドラに似ているかもしれない。


「アムルさんだっけ。今日のお祭りはご先祖様方が戻って来るものなんだよ」

「おばけ出るよー」

「こら、脅かさない」


 きゃらきゃらと楽し気な子供たちに目を細め、アムルは隣の少女に話し掛ける。


「詳しく聞いてもいいですか?」

「あたしたちはナハドラクって言う一族でね。竜に守られてるのさ」


 少女は村の伝説を教えてくれた。


 昔々の話。

 空を割いて一匹の竜が舞い降りた。その鱗は金緑に輝き、声は雷鳴のように響いた。

 竜はこの地の人々に問うた。

「お前たちは自然と共に生きるか。それとも自然を支配するか」

 人々は答えた。

「私たちは山の声を聞き、森と共に生き、大地と共に眠ります」

 その言葉を聞いた竜は喜びの涙を流したという。

 その涙は大地に染み込み、黄金の稲穂となって実った。



「それから、竜はあたしたちのご先祖を守ってくれてるそうだよ。

 あたしたちは死んだら竜の元へ行き、眠るんだ。

 そして一年に一度、夏の夜。その魂たちが戻って来るんだ」

「それが、この祭なのね」


「うん。何度か子孫の繁栄を見届けて、安心したらその魂は次の生に向かうんだって」

「輪廻転生」


「難しい言葉を知ってるね。学者さんかい?」

「そういうんじゃないけど」


 アムルは広場の中心で燃える火を見る。

 その周りで人々が輪になって踊っている。


「あの火を目印に、帰って来るんだって」

「この歌は?」


 皆が口遊んでいる歌。言葉はしっかりと聞き取れない。


「古い歌さ。

 ここにいるよ。あたしらは楽しくやっているよ。

 ご先祖さまがた、どうぞ安心しておくれ。

 そんな歌」


「良い歌ね」


 アムルは目を細める。

 あたたかくて、優しい歌だ。



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