第六話 金欠脱出
「いやいやいや、もらえねえよ! しかも一万円なんて尚のことだ。桁が違う」
普通に、否、常識的に考えて、人に献上出来る額等は百円、二百円程がざらだろうが、それとは予想斜め遥か遠方へと通過し、一万円だ? 正気の沙汰じゃあない!
その通りだと、丁重にお断りを入れることを決意した遼。
「一万円は欲しい。喉から手が出る程欲しい。欲しいがっ、もらえない。だから拝借することにした!」
いつの間にか改変された思案は、遼が正直に感じたことをそのまま口に出したもので梨璃雪は、別にいいのにぃと福沢さんを手渡してくれた。
これで遼が梨璃雪かえら借りた総額は二十四万二千五百円。
なんて借金王なんだ。
そうだ。
今までにもこんなことは輪廻のようにめくるめく繰り返されており、ただで貰い受けるのを拒み続けた結果が、これというわけだ。
畜生…………まぁ、そのお陰で今回もまた金欠から脱出出来たわけだが。
賽銭泥棒なんて企てた遼への神社からの対処だったのだろうか。
ありがたくもありがたく、そして結論的にありがたいことだな。うん。
梨璃雪はくるり踵を返すと、賽銭箱の前に立ち、あろうことか『千円札』を取り出した、ってさっきも似たような台詞をいってたよな。
一体全体、梨璃雪は野口英世さんを手中に隔離して何をしようというんだ。
想像もつかない。
寧ろ創造も付かない。
「あ、間違えちゃった」
手にした野口さんを札の海に浸らせ再び弄り始める梨璃雪の顔に陰りはなく、正気そのものだった。