第五話 一万円札
「そんなことよりお前、なんでこんなところにいるんだ? 神社に通う趣味があったなんて初見の俺にとっちゃ驚きだぜ」
「いぁ、そんな趣味はないけどね、ちょこっとお願い事があってさぁ」
「なるほど、それで神頼みって訳か」
先ほど遼が忌み嫌い否定した言葉だ。
「そぅそぅ、藁にも縋りたいってことでねぇ。理由は訊かないでおくんなましっ」
「訊かないけどさ。まぁ、俺には声しか掛けて遣れないし、大変だろうが頑張れよ」
まるで人事、理由が解からないのだから当然といえば必然に繋がるが、そこはお構いなしにと、
「うんっ、ありがとー」
力強く頷く梨璃雪だった。そして次は私と言わんばかりに、
「遼ちゃんは、どーして神社に来たの?」
「え? お、俺か?」
急に話を振られネタも会話の引き出しもなく、弱ったなと問題が解けず困り果てた受験生の様な位置的状況に置かれ、本当は「なんとなくだ」と適当に誤魔化せば良かったのだろうが、
「金欠でなんとなく街を彷徨ってた」
まんまその通りのことを口走ってしまった。……はぁ、と遼は内心で嘆息した。
「うーん、お金がないのかぁ。ならちょっと待ってね」
そう言って梨璃雪は肩から提げていた花柄のポシェットをがさごそと弄ると、ジャーンとでも擬音の付いてそうな勢いで正方形の財布を取り出し、さらにはぎっしりと札の詰まった割れ目から一万円札を取り出した!
「福沢先生じゃないですかっ! ……はっ」
声に出すつもりはなかったのだが、ついつい口を突いて出てしまった。
何を思ってか、取り出した一万円を遼の胸元まで突き出すと、
「はい、どーぞ」
あろうことかそのまま献上するというのだ。
金銭感覚の狂いは、何れ身を滅ぼす。
これ名言な。