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金の力はパステリー  作者: 河合 翔
金の力はパステリー(2)
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第五十二話 遼の意図

「あっひゃ、冷たっっ!」


 尻をついていた椿姫が勢いよくジャンプしバシャンという音をたてコンクリだったところに立つ。



 今の状況を簡略的に説明しよう。



 これは目を見張る光景と言わざるを得ないもので、屋上一帯が完全に浸水していた。勢いよく溢れる水は屋上から地面にふることのないぎりぎりの量で、凄腕マジシャンのような真似事をする瀬央はやることはやったと言わんとする態度で手を下ろし、水で濡れた手をはらった。


(ネタはあがったってか。誰がうまいこと言えってんだ。タネとも置換できそうだけどよ)


 水没した屋上は遼達の膝丈まで濡らし、くそ、女子はスカートだからいいだろうが(よくはねえか)男子はズボンだから回避しようがないんだよな。こんなところで服装の損得を感じようとは、水のせいでへばり付いたこの制服用長ズボンが恨めしい。


「もう、なんなのよこれ! 靴と靴下とスカートがびしょ濡れじゃない!」


 思わぬところで憤慨ふんがいする椿姫、膝下しっかを押さえる様子をじっと見ていたら、


「何見てんのよ!」

「うわっ」


 椿姫にすくい上げられた水をぶっかけられる始末。実に堪ったもんじゃない。


「ウチの謎力パステリアスに秘められし能力は『水』。水を操り司る、水のパステリー!」


 水風船のような玉状の水を作り、てのひらで形を器用に変えていく。


「水なんてのはな、周囲にいくらでもあるんだ。川、海、水道、そして空にも! どれだけ使っても無くなることがないくらいにな!」


 掌に浮いていた水塊が急にぜたと思ったら、瀬央の左右から一直線に伸びた水が日本の極太鞭へと姿を変え、そいつが回転をし始める。先っぽがとがり、いやらしい妄想に浸る間もなく、水流の鞭が遼目掛けて襲って来た!


「ちょ、いきなりかよっ」


 あんなのまともにくらったら死んじまうこと必須に近き未来を読み取り、脳裏が一瞬ぶれる。しかし気を強く持った遼は気張るように水流を見据え、濁世じょくせとの別れを告げる遺言を残す代わりに、掛け声を上げた。


「うおお、で、出でよ水流!」


 腰が抜けその場に尻餅をつく遼はモロに水を被り、追撃するように類同した水の鞭が遼の横から現れる。適切な表現としてはえる方がいいかもしれないが、迫りくる水流と同様の蛇鞭がぶつかり、火花の代わりに水を散らして、円満にも相殺と打ち消した。


「おおう、おおう……」


 こればっかりは仕方ないと、驚きに支配され心臓音がばっくんばっくんこだまする。


(あ、危なかった……)


 安堵あんどするよりも先に思考回路がしゃしゃり出る。


 間髪入れずに飛び出した能力アビリティ相殺クラッシュだが、もしも不発に終わっていたら、死ぬまではいかなかったとしても確実に全治二週間以上の重傷を負っていたところだろう。なにより躊躇ちゅうちょなく攻撃を繰り出した瀬央が論より証拠だ。奴の目を見ても獲物を狩るような眼光は継続したままで、誇るようにズシンと構えていた。


「……へえ! 流石はコア。えばるだけのことはある」


 別にえばったことなど一度だってないつもりだし、喧嘩を振ってきたのもそっちからだと思う。こればっかりは異論は認めない。


「久しぶりだなこの感覚。最近は待機ばっかり命じられてたから暴れることができなかったけど、やっぱり思う存分力を使えるのはストレス解消にもなるし、清々する」


 気持ちを表沙汰にする瀬央を見てて率直に感じたことが遼にはあった。


 なんだか、心から勝負を楽しんでるような。それは十分瀬央の発言からも読み取れるものではあったが。


「いーやあ、足が冷たくて気持ち悪い。遼っ、なんとかしなさいよ!」


 ……さっきから外野がやけにうるさい。


(俺ばかりに命令して、お前もいちおう謎力パステリアスの力を持っているだろうが)


「そんなに文句垂れるならお前も戦えよ。水使い相手に俺一人じゃ少し心持たないぞ」

「あんたがいた火種でしょ。それに、あたしの力はかねを呼び出すものなのよ。か、ね。こんなところで役立つわけもないでしょうに。少しはない頭捻って考えなさいよ」

「む……確かにそのとおりだけどさ」


 軽く丸め込まれてしまった。言い負かされたとも言う。流石にこの付近にきんがポンポン埋まってたりするわけないだろうからなぁ、どこぞの昔話の世界だよって感じだ。


 しかし、正論を並べ立てられたとしても少々きついおきゅうを据えられたような感慨に浸った。心緒しんしょ傷める、そこまでずばずばと言わなくてもいいのに。


「結局俺一人で戦う羽目になるのかよ……あ? なんだなんだ」

「わわっ、また水がきたっ」


 膝丈ひざたけからどんどん水嵩みずかさが増していく……ではない。正しくは登ってきているのだ。登るすべを得ないケラがツタ登りを体得したような、命あるような水が遼と椿姫の太ももから横へ行こうとする。


 男を対象にしても何の面白みもなくただひたすらにバッシングだけを受けそうなものだが、逆に女の場合だったら周囲が熱気に満ち溢れ、犯罪を起こす者まで出そうなもんだ。


「さぁ、お前らに逃れられるか?」


 たとえこんな状況でも遼は健全な男であるゆえに、スカートまで水が到達したその後はどうなるのか、期待と不安が一緒に交差し飽和状態を築くまでに至っていた。


「これ、見えちゃうんじゃね」


 ポロッと声に出してしまい、取り乱していた椿姫がハッと我に返ったようにスカートの裾を押さえ、キッと遼を睨み付けた。やけに擬音が混じってる気がするし、とあるゲームの世界では防御ががくっと下がりそうな眼飛ばしだ。


「あんたー、変な想像してないで早くこの状況をなんとかしなさーい! も、もし水が登りきっちゃったら……そん時は覚悟しときなさいよ!」


 やべ、毎回飛び出すついうっかりがここまで威力のでかいものとは。


 温室プールに浸かる心地で遼は内心天秤で推し量る。ある人物の布地を見て殺されるか、このまま窒息して辛い想いをするか。考えるまでもない。どっちも嫌に決まってる。


 もし本当にこの選択肢なしで決定を出す大馬鹿野郎がいたとしたら、そいつはよほどのドMか、自殺志願者のたぐいに違いない。あーいびりーぶふゅーちゃー、しーんじーてるー。


「こうなれば、やるべきことは一つしかない! とおりゃっ」


 遼はぐるりと体躯たいくを曲げて、その勢いで念を投じるように瀬央に向かってやり返す。


 能力アビリティ相殺クラッシュ、とは意味が異なるやり返し。思ったとおりに発動出来た。瀬央にも同様の技を喰らわすことが。


 成功してガッツポーズを作る遼に、残念そうな表情を浮かべて瀬央が口を動かす。


コアの力を使ったようだけど、ウチに水をまとわせたって、なんら意味がない」

「ふん、それはどうかな!」


 こればっかりは強気で言い返す。


(普通の線で考えりゃそら効果はねえだろうが、瀬央はまだ俺の考えるスケベ心な意図に気付いていないようだ。しかしそれが命取り!)


 そろそろ水がスカートの地点に到達する。もう少し、もー少し、と遼は下心も丸出しで顔だけではなく腰まで折るが、


「あっ? ちょっ、うわはっ」



 ばっしゃーん!



 なぜ解けたのかは分からないが、遼に取り巻く水が分解したように固体を崩し、勢い余って水中に顔を埋めてしまった。


「何やってんのよ!」と椿姫が叫んでいるようだが水中でバク転した時と同じ要領で耳に水が入り、あまり何を言っているのかうまく聞き取れない。


「ぷはっ。な、なんあんだよ急に……んあっ?」


 驚くように目を丸める瀬央が棒立ちしていた。


「な、なんでウチの水縛りが解けたんだ? これはあくまで実力差を見せ付けるための技。意識が飛ぶよう窒息しない程度の調整を施そうともしてたのに……」



 説明口調の瀬央だが、水によってスカートがめくれ上がった今! 見えているのは紺色の地味なパンツ――ではなく、なぜかなんでかなんでだろう。疑問を溜め込むことは遼には到底適わないようで、正直魂に燃える遼は包み隠さず現在進行形の現状を発言した。

yahooooooo!

俺の拳が真っ赤に燃える!!


――……結局俺は何が言いたいのだろう、きっと意味なんてない。あるのはそう、これだけ。更新という名の二文字。意図が伝わってくれればいいな。

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