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金の力はパステリー  作者: 河合 翔
金の力はパステリー(2)
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第五十話 ラブレター

 鍵をかけ、ツンとました椿姫を隣に約束通り一緒に登校する。


 だが呆気なくもそれはすぐに終焉を迎えた。


 お互い無言のまま足を動かし、電線に止まる小鳥 (カラスだけどな)のさえずりと軽自動車のエンジン音をSEに、遼と椿姫は見慣れた正門を通過すると、昇降口にまでやってきた。


 ここが解散ポイントだろう。


 横目で見る椿姫の表情はさっきと変わらずツンツンしてるし、結局一緒に登校という意図を読み取ることが出来なかったわけだが、まぁさほど気に留めるべきことではないか。


 女心改め、椿姫心なんて単純明快なものに決まってる。断言してもいい。核心だってつけそうだぜ。



 そんなどーでもいいことを考えながら増やした歩数に釣られるかのように、鳥羽、梨璃雪、紫依の三人が現れた。


 またこのご一行か。どこかで見た光景だな。昨日くらいに覚えがある。



 朝っぱらから会うなんてお前ら柱の影で待ち伏せでもしてたんじゃあるまいな。疑わずにはいられない。人間、疑心暗鬼を抱く頃が一番確りしていると思う。


 鳥羽の野郎に全神経を集中して疑いの眼差しを向けていたところで、


「お二人ともおはようさん。朝から仲良く登校ですかい? 全くもってうらやましいなぁ! あ、今思ったが羨ましいってやましいって言葉も混じってんだよな。これ意味あんのか?」


 口火を切ったのも余計なことを口にしたのも、全部鳥羽だ。


 遼は別にいつも通りのバカなこととして捕らえたため憮然ぶぜん「よっ」とだけ返してやるが、椿姫の場合はそうはいかなかったようだ。


「はぁ? そ、そんなんじゃないわよ。訂正しなさいっ」


 鳥羽の台詞によほどカチンときたのか、思いっきり否定しに掛かる。


 ええっお前から誘ってきたことだし、んな目一杯否定しないでも、と軽くショックを受けた遼は椿姫に目をやると、怒ってるというかは、その、なんだ。逆に笑ってるように遼の目には映った。気のせいかもしれないが。


「おはよぅ遼~」

「おっはー遼ー」


 間を割るように、そして間の抜けた朝の挨拶を遼に寄越す梨璃雪と紫依の二人。


「あぁ、おはよう」


 遼は手を上げて当たり前のように返してやった。


 そしてとことこと近付き、遼に耳打ちする梨璃雪は興味津々と言わんばかりの笑みが溢れた表情で、


「椿姫ちゃんどうしたの? こんなにいきどおっちゃってさ。それに一緒に登校?」

「う。い、いやそれは……」


 なんだか話がこじれて面倒の段階を踏むにまで発展しかねない雰囲気だ。


 そんな芽を遼は如才なく離散しに掛かる。


「なんのことだろうな? 俺にはちょっと理解が及ばないなぁ」


 ここまではズバリ流れ通り、下駄箱を開ける。そしてここからが本題だ。


 まさか下駄箱の中なんぞに遼の理解の範疇はんちゅうを超える代物が入っていようとは誰に想像できたことか。結論から言うと、それは誰にも想像はできなかった。



 まるで春一番をモロに、晩霜ばんそうを目に、桜の万朶ばんだが全身を覆い尽くすが如く、遼は下駄箱の中に入れられた四角い手紙に目を奪われた。ものの五秒間ほど。




 バタンッ!




 あまり広くもないプレハブでできた昇降口に十分すぎるくらいに響き渡る音。


 今の遼の心臓音よりかは劣るものの、近場にいる奴らの注目を一斉に引くにはだいぶでかすぎるようだった。



「えっなぁに、どうしたの?」

「おっ、どうしたよ遼。その意思表示、さては俺の強靭なる肉体を生で見せてくれっつー、一種の疎通そつうか?」

「んなわけないじゃない……」

「うわっ、遼それ耳によくないよ!」


 三者三様、いやこういう場合四者四様……ええいどっちでもいい、とりあえず三者三様に反応を見せる者達だが、げっ鳥羽の奴がマッスルポーズを作りながらじわじわと向かってきてやがる。この相貌そうぼう、どうしたら!


 下駄箱に投入されていた代物、そいつは高確率でラ、ラブレターだと核心する。なんてったって恋文をつづったであろう便箋びんせん入り封筒には今時有り得ない且つ王道なハートのシールで止められてたのだから、これはもう誰が見遣って解釈したとしてもだ、九十九パーセントの確立で同じ返答がメールによって受信されるに違いない。断言したっていい。


 それほど今の遼は自信に満ち溢れ歓喜喝采の嵐を胸中でおし留めている。


「なんだよー、隠すなよー」


 ついに目の前にまで迫った暑苦しくも見飽きたにやけ面。


 あぶなーいと注意をらすべく叫ぶ遼。


 正反対の二人が交差した今。


「いや、なんでもある……」

「ああ、そうか。なんでもあるのかってあんのかよ!」

「んん。あ、いやこれは……」


 ぬかった! せっかく栽培した最高のキュウリを親戚のばあさんに糠漬けにされるくらいにぬかった!


 くっそう、自ら墓穴を掘り進んでしまうとは……ならば返答に欠陥をあけなければいいだけの話。ここは若干開き直った感じで抜き身を通そうぞ。


「あっ、二次元のとびっきり可愛いキャラが鳥羽の背後にいない!」

「えっ、まじでっ!? ……おい、いねえじゃねえか! 騙したな!」


 一瞬だけ振り返る鳥羽と同時に、遼はプロのスリに負けず劣らずの手法で下駄箱からラブレターなる物を抜き取ると、ポケットに滑り込ませた。


 鳥羽が振り向いた際、つられて椿姫達が顔を背けてくれたのは僥倖ぎょうこうと言えよう。


(――助かった)


 なにより心から想い安堵あんどを吐く。


「いねえぞこんちくしょー!」


 頭をもたげ、遼とは対照的に心から悲しむ鳥羽に対して、罪悪感なんぞこれっぽっちも感じやしない。なんてったって、


「騙してなんかいねえよ。俺は始めからいねえって断言してたんだからな。そうだよな梨璃雪」


 同意を求めるように梨璃雪の方を見遣る。


「えっ……うん。遼の言ってることは正しいよ。だって、いねーって言ってたもんね」

「な、なんだってー!?」


 記憶力に定評のある梨璃雪が言うんだ。そりゃあ疑いようもない事実だし、おとなしく観念するべきだと思う。


「くぅぅ、そういうことか。くそぅ、まんまと騙されちまったぜ」


 結局騙されたと嘆く鳥羽にかけてやれる台詞なんてのは、例え検索をかけてやったとしても該当件数ゼロに近いもんだ。こんなトンチのようなあべこべ話にマジレスするつもりなんてさらさらないが、ここは至福のラブレターに免じて、ほんの少しだけ男のなぐさめをくれてやる、慈悲の心からくるんだよ、ほれ。と遼は怪しげな宗教団体を束ねる教祖のような笑みを浮かべて、ポンポンと魔力の篭った手で鳥羽の肩を優しく叩く。


「安心しろ鳥羽。いつか二次元に行けるような日がきっとくるさ。必ずな……」

「遼。お前って奴は……」


 根拠の欠片もない伏線なるフラグを立てる遼はニッといやしく顔を歪める。


 今は誰からもとがめられたくないそんな気分なんだ。許してく、ん?


 男の友情とやらを見せ付けられた椿姫と紫依は、お世辞にもピックアップできない苦笑いをして、梨璃雪だけがなぜか悲愴な面持ち、落ち込んだような態度で上履きに履き替えていた。


「どうした? 調子が悪くなったのか?」


 むつまじく見合っていた鳥羽をあっさり蹴散らし、上履きを替えて梨璃雪の元へ近寄ってやる。


「ん……なんでもないよ~」


 後付したような笑顔と取って付けたような台詞を返す梨璃雪に、遼はそれ以上言葉を返さなかった。




                       $ $ $




「むっふっふっふっふっふ。ラブレターが破れたー! なんちって」


 あまり利用されることも少ない体育館脇男子トイレの奥から二番目の個室。


 傍から、否、どこから見てもボロく外壁の塗料は剥げ落ち、内面のタイルに至ってはカビに侵食され、苔みたく変色したのは大分昔にまでさかのぼらねばならない。


 異臭が立ち込め、ドアの建てつけも悪く、クモの巣が張った天井の通りはアシナガグモの領域テリトリー


 掃除当番にも見放されたここ男子トイレ内で叫ぶ男が一人。当然、そんな物好きな野郎は一人しかいない。



(何を隠さなくともそう――俺、出雲遼だ)

思ったよりも更新に時間がかかった。受験生って時間ないよね。

え? いいわけ? へりくつ? ごめんねごめんねー! ……なんかすみません。

やっと五十話です。綺麗に五十話分を三万文字でまとめたら五話くらいで済みそうです。

二巻分の更新が全て終わったら一回まとめてみようかなとも考えていたり(笑)。

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