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金の力はパステリー  作者: 河合 翔
金の力はパステリー(2)
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第四十八話 出雲和平

『プルルルルルッ。プルルルルルッ。ガチャッ。はい、只今電話にあがりました出雲ですが』


 発信コールからおよそ五秒もしない内に電話が繋がる。


 当然その相手は遼の父、和平だった。


「っと。あー俺、遼だけど」

『はて、遼? うちにはそんな人間はおりませんが……ああ、なるほど合点。新手のオレオレ詐欺か何かですかな? はっはっは』

「はっはっは、じゃねー! そもそも新手でもなんでもなくてもう古いわ。流行遅れもいいとこだろ。まぁもし俺がやるんだったら、」

『おいおい、電話越しの親父ギャグにそこまで熱を入れて返さんでもいいだろうに。長ったらしくなるぞ』

「あん? そっちから変なボレーで振って来たくせに……」


 苛立ちを込めぶつくさ呟く遼に、和平は突如高笑いをし始めた。うるさくてたまらない。


『それでどうした我が息子よ。久しぶりのラブコールなんかいれちゃって。ママがあまりにも冷たいからファザコン移動か?』

「その安定しない喋り方とネタ振りは止めてくれとあれほど……言うべきことがあるだろ、一つ! 重大な事柄について」

『重大な事柄? ふーむ……』


 頭を悩ませるように間を置く和平だったが、どうせまたロクでもないことを言い出すに違いない。


 和平ならそうしかねないため、初めから疑って掛かる仕様なのだこれは。


『――ああ、解ったぞ。椿姫ちゃんのことだな、そうだろう』

「おっ、そうそう、そうだよ。椿姫のことだ。重大な事ってのは」


(すげえな親父、今回は一発で答えやがった)


 なんて珍しい、と遼は感嘆するも、やはりそんなことはなく的外れな言葉をよこしてきた。


『あの子が遼の彼女か。ふむ、遼には勿体無い可愛い彼女じゃないか。父さんは嬉しいぞ、遼が女の子とかの関係を持った事に』

「……は?」


 電話越しのため、互いに表情確認することは出来ないが、遼は今かなりのアホ面だと思う。


 こういうのを呆気にとられるというんだっけか。


「ち、ちげえから! 何を思って勘違いなんかしてんだよ。俺と椿姫はそんな関係じゃないし、彼女でもなんでもない!」

『またまた~』


 茶化す親父にぷっつんしそうになる遼。


 お、親父の野郎……。



 因みに今椿姫はこの場にいない。


 いようものなら椿姫椿姫と名前連呼なんて出来ないだろうし、この場にいないといえば語弊が生じそうなものだから言い換えると、ここは家ではなくアパートを出てすぐにある公衆電話ボックスの中だ。


 別に家からそのまま繋いでやってもよかったのだが、なぜだか解らんが、家から掛けると電波が届かない事故が多数発生するため、緑箱から掛ける形とした。


 あえていちゃもんをつけるとすれば、電話の上に置かれた十円がそろそろ底を尽きそうという点か。


 なんで十円一枚で十秒足らずしか通話ができねえんだよ。



 ぼったくりだろ、これ。



『ま、その話は今度じっくり訊かせてもらうことにして』


(おい、だからちげえっての。その前に親父は人の話をちゃんと聞く事から始めた方がいいと思う)


『椿姫ちゃんについてはな、あの子から俺に頼んできたんだよ。あたしを入学させてほしいって。お金もないけどお願いしますって真剣な眼差しだった。そんないたいけで可愛い女の子から哀願乞われたんじゃ、おじさんイチコロで断れないだろ? まいったなぁ、。はっはっは』

「なんだ、それで椿姫の入学を許したってわけか。しかも無料で」


 遼は親父の甘さにふぅと一息吐いた。


 無論良い方の意味で。


『ああ、そうだ。ホントあの子は根っからのいい子だぞ。親が口を挟むことじゃないだろうが、取り逃がすんじゃないぞ』

「まるで捕獲するような、ん、まぁ言われなくてもあいつは俺が、な」


 それ以上親父は何も訊いてこなかった。


『金についてのはなしだが俺だって財政的に手厳しい状態なんだ。母さんに根こそぎ持っていかれたからなぁ……勘弁してほしかった』

「それは親父の自行自業としか言い様がないけども」

『……まっ、要はお前も親のすねかじってばかりいないで、自立しろってことだよ。俺にも限界があるからなっ』

「なっ、じゃねえって」


 そもそもすねすらまともにかじらせてもらえてない気がする。


 いやホントに、リアルにな。


「俺だってバイト探して三千里なわけで、げっ。残り十円三枚しかねえ。な、なけなしの十円一枚目を投入……」


 ここまで使用した十円の数はおよそ十枚にのぼる。


 なんとジュース一本が買えてしまうのだ。今思えば無性にもったいない気がしてならない。


 今度は直接会って話す事にしよう。


 

 ジュース一本のため、そう心に決めた遼だった。


「……気を取り直して、母さんの方は元気なの? 所在とか連絡する手段がないから困ってるんだけどさ。ああ、妹とは初日から学校で会えた。相も変わらず空元気だったよ、ある意味で」

かがり、母さんか。元気にやってるっちゃやってるな。多分遼の想像する通りの豊満さ加減で。そして放漫でもあり飽満でもあったりする』

「ふーん、そっか。それならいいや。元気にやってるならそれで」


 安堵あんどするように遼は内心で閑静にすると、一つの思考が働き、それが勝手に口から飛び出した。


「あのさ、今度の中間テストで俺がベスト五に入ったら、一つだけ願いを聞いてくれないか?」

『ん、願い? どんなだ?」


 食いついてきてはくれた。


 しかし肝心の願いはまだ、


「考えてないけどさ。とりあえず目標があったら狙えるかなって、駄目か?」

『いや、別にいいぞ。受理しよう。やる気になるのはいいことだし、願いもそんな無茶なものじゃなければ問題ない』



 ――見事に通った遼の発案。



 しかし親父はあることを後付しようと言葉を重ねる。


『その代わり一つこちらからも条件を出してやろう。条件とは、中間テストまでにバイト先を見つ――プチン。プーッ。プーッ』

「……」



 な、なんだってー!?



 なんでこんな区切りの悪いタイミングで切れるんだよ。何者かの悪意しか感じない。


 これは誰かの策略に違いない。そう結論付けさせてもらう。


「……そんなことは、ないよな」


 最後だけ長く保っていると余裕を浮かべていたのが悪かった。


 もう少し早くに切り出しておけばよかった。


 さて親父は最後に何て言って何の条件を出してきたのか。



 ――中間テストまでにバイト先を見つけ――ること、だろうな。容易く続きが連想出来る。


「バイト、か」


 ついには無言となった受話器を耳に当てたまま、遼は一言だけ念頭から吐き捨てた。



「見つけてやるよ、俺に見合ったバイト先の一つくらいな」

俺の怒りが有頂天。

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