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金の力はパステリー  作者: 河合 翔
金の力はパステリー(2)
51/61

第四十七話 暴君大家さん

 ――出雲ふりる。



 遼の妹で歳は十五、左右紐リボンで結んだ紫色の髪を揺らし、弾ける笑顔のタネはロリコン歓喜のその童顔。


 地味に新学校であるここ出雲高校に、校長である父のすねをかじることなく正面から入学したふりるがなぜトップの成績で合格したのかわけが解らない。



(俺や鳥羽が入学するのに、どれだけの勉強を積んだことか。どれだけの時間を割いたことか。どれだけの生命力を削って深海魚になったことか!)



 おお神よ。なぜ兄妹の知識量の差をここまで広げてしまったのか……。


「ふりる! お前のせいでお花畑がちらついたぞ。これは以上バカになったらどうすんだよ」

「ぅわ、愚問ぐもんだねはる兄い。いっぺん死に掛けたりすると不思議な力が宿ることがあるんだよっ。むしろチャンスを与えたこのふりるに感謝の喝采を降らして!」

「う、うぐぐ……いつもながら的外れで調子の狂う話し方しやがって。今日という今日はお前に反発を示してやるぞ」

「うみゅ? 奇妙な脅しだねぇ。はる兄いはいつもから回りな邁進で説得力にも欠けって、ぁひゃあっ! わわわー、なーにーすーるーのー!!」


 我慢しきれず耐え兼ねた遼が、ふりるの両脇を掴み、ひょいと持ち上げる。



(流石に軽いが、暴れてくれるな。俺はただ有言実行をしたまでだからな)


「ゃー、助けてぇ。ぉかされるー。ぁ、もしかして近親相姦?」

「おいバカ。誤解を招くような発言を堂々とすんな」



 さっきから胡乱うろんな目付きでこっちを見つめる二人の片割れが、ついには欠伸あくびまでし始めやがった!



「ふぁ~ぁ……ん、こらこら。いい加減戯れるのを止めないか」

「欠伸してた奴の台詞じゃねえ! あいたっ。こ、この野郎」

「へっへー、詰めが大甘よ」


 憤っていた遼に、ふりるからてんとしての足蹴りをモロにくらってしまった。


 これが天誅てんちゅうといえばどれだけ理不尽なことか、心底坦懐を抱える遼は、前よりかは成長しているのかもしれない。


「ぅゆ、まー今回ははる兄いに会いたかっただけだし、ふりるはこれにて退散するよっ。まぁたねー。こずちゃん行こっ」

「あっうん」


 まるで台風のように現れ、梢と一緒に去っていく我が妹ふりる。


 今回負ったのは打撲傷だけで、久しく会った妹だというのに、全く心のいやしにならなかった。


(うぐぐ、妹の奴無駄に人付き合いだけは得意だからな。猫かぶるのもうまいし、高飛車に自称美徳とか言いやがる。早速梢と仲良くしていたみたいだし、皆勤を築き上げるのも時間の問題かもな)


「お前も大変な妹を持ってるんだな、俺の方は娘だが」

「……あんただって似たようなもんじゃねえか」


 窓から差し込む光が乱反射のように廊下を照らし、窓から入り込む光風に感慨かんがいを抱く遼だった。





                         $ $ $





 桜舞い散る校庭を通り、春の情景を堪能しつつ帰路に着いた遼を待ち構えていたのは、誰もが恐れおののくオンボロ荘支配者、暴君大家さんであった!


「どこがオンボロ荘で、誰が暴君大家ですって?」

「げげっ。大家さん」


 こめかみをピクンと揺らし、口まで引きった大家さん。


 その表情からは小皺しか読み取れない、なんてついうっかり口に出してしまった日にはアパート全体に血の雨が降りそうなのでと、理性を我が物にしようと踏ん張る遼は必至になって口をつぐむ。


 というか、冒頭の語りはどこから口に出していて、そしてどこから聞かれていたのか疑問が募る。


 前者にオンボロ荘と単語を発していたところをみると、誰もが辺りからだと憶測おくそくを立ててみる。


 結果的に手遅れか。


「いつもながら、というか出会い頭から愚痴を吐くのもなんだけど、私の顔見てげげっとか言うの止めてもらえる? 私の小皺が増える原因の一つになってるから」


 どうやら自覚していたようだった。


 しかしそれはよかったですねと相槌を打てるほどの安全な状況でもないし、むしろ窮地きゅうちに立たされているもんだと、自覚だってしているつもりだ。その証拠にほら、足だって震えてるし。


「そ、それはそれは。本当にすみません。恐れ多いことで」


 リアルに実際恐れ多い。


「全く、本当よ。いちいち世話が焼けるわね。あと何日かしたら私も三十路を迎えることに……え、あっ、ま、間違えたわっ。二十歳はたちを迎えることになってしまうわー。おほほほ……」



 ……十歳も鯖読んだ?!



(知りたくもない歳を自ら暴露した挙句の果てに、数字改ざんですと? 駄目だ! 俺では対処しきれない。どう突っ込めばいいのやら)


「それはお若いことでー」


 ……妥当なところか? ちょっと棒読みすぎた? 大丈夫?



 チラッと大家さんに目をやると「そ、そうでしょう」と無理に噛み合わせながら笑っていた。


 手応えはあったようだ。一先ず万事休す回避。


「そんなことより」


 自分の発言を記憶から抹消してしまったようで、いきなりこんなことを言い出した。


「家賃は払えるようになったの? 今月分四万二千円。大変だと思うけど請求させてもらうわ。あなたから貰わないと他の住居者に示しがつかないものね」

「いきなり正論並べ立てるんスか!?」


 そんな辛辣しんらつな。


 不意打ちだ! としか叫びようがない。


「……もしかして、また払えないの?」

「ええっ、そんなこと」


 心配そうに顔を覗き込む大家さんとは正反対に顔色を伺う遼。


「……払えません」


 見合うことなくあっさり根負け。


 根競べすらしたつもりはないのだから根負けではないか。


 しかしながらあっさり白状してしまった辺り、大家さんには一生うだつが上がる気がしない。


「はぁ~、そうなのね」


 深く溜息を吐いて頭をもたげる大家さんに、必殺溜息返しをお披露目したくなったが、自我に助けられて押し留めたし、そもそもこの息攻撃、溜息のワンランク上の嘆息ではないかと遼は口をすぼめる。


「言い訳を聞いてあげるわ。どうして払えないの? あっ、お金がないからとか漠然としたものはなしね」

「理由はバイト先が見つからないからです!」


 意思がはっきりと伝わるよう即答する。


 そして身振り素振りのオプションも追加しておく。


「それなりに面接に出向いてるつもりなんスけど、落とされてしまいましてね……もートラウマものですよ」

「……若干開き直ってない?」

「う」


 オーバーリアクションが裏目に出たのか、墓穴を掘り進んだように冷や汗が滴った。


「いやいや、開き直ってませんって! あ、そういえばですね。ちょっとだけ親父から臨時収入が貰えまして、に、二万円ならすぐに払えます。ええと……はいどうぞ」


 カバンをまさぐり、無造作にも封筒を取り戻してそのまま大家さんに手渡した。


 こんなこともあろうかと二万円は別の場所に隠しておいたのだ。


 一枚は折り畳んで内側のベルトに引っ掛けてあり、もう一枚はあえて右ポケットの内に。ふっふふ。二万さえあれば今月はそれなりに有意義(節約的遣り繰り)な生活を送れるぜ!


「あっ、ポケットの中にもう一万あるのね」

「ゑ?」


 手を伸ばして遼の右ポケットから一万を取り出し、封筒に入れた大家さん。


(な、なぜに一つ目の隠し場所がバレたんだ。嘘、ありえねえ、まさか!)


「……あんた、気付かないうちに自ら隠し場所を暴露してたわよ。ま、私からしてみれば怪我の功名ね。あんた自身の発言に助けられたわ」

「そ、そんなバナナ!」


 ついつい口からくだらない洒落が飛び出してしまう、言うつもりなんて微塵にもなかったというのに。


 最近に至り、考えただけでも口に出してしまってることが多い。


 なんだか日に日に悪化しているような気もする。


(この理不尽なやまい。誰か何とかしてくれよ……)


「三万円は回収したわね。残り一万二千円。それと確か、後の方に二万って単語が出てた気がしたんだけど?」



 やばい! これ以上話していたら根こそぎ奪われてしまう!



 第六感アビリティ発動。



 コマンド → 逃げる。



「もうホントに勘弁してくださ~いっ!」

「わっ」


 通せんぼする大家さんを華麗に避けて、二○三号室の前に立ちドアのぶに手を掛ける。



(このまま逃げ切れれば俺の勝ちだ!)



「これにて失礼――でねぶっ!」


 ドアのぶを、捻ったところで、ドア開く。


(俺、なんとなくの俳句)



 思いっきり開かれたドアが顔面にクリーンヒットし、その場に崩れ落ちる遼は鼻血に制圧され、開いたドアから覗く椿姫は、たっぷりシェイクされた炭酸飲料水をついうっかり開けてしまった事後の時のような顔を向けた。


「あ、遼じゃん。なんか、死んでる?」



 薄れゆく意識の中、こんな台詞を聞いたことあるーと、頭ん中でぐるぐる反芻はんすうを無限に繰り返していた。

9月16日までは夏休みなので打つ時間だけはたっぷりあります。

でも課題終わってなくてぷぎゃー。

今週の土曜日にポケモン発売日なので購入以降更新速度激減しそうな予感。

ポケモンによって左右される更新( ^ω^)おっおっ

因みにホワイトの方買います。

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