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金の力はパステリー  作者: 河合 翔
金の力はパステリー(2)
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第四十六話 金の行方

「ふんっ、美少女が転校して来て興奮してんのは解るけど、がっつかないで聞くことね」

「むぐぐっ……あっはい……」


 口のチャックを解かれ喋れるようになるも、諭すように上から目線の椿姫にあっさりと立場逆転をされてしまった。


 情けない。不甲斐無い。さっきまでのいきどおりはどうしたのかと、自分自身に遺憾いかんを覚える。ついでにくと、


「美少女って誰ですか? あっ、声に出してしまった……」


 先に念押ししとくとわざとじゃないぜ?


 しかしながら、遼が口を半開きにあわわさせていると、予想外にも椿姫の奴が目を丸めてこんなことを言った。


「なに言ってんのよ。このあたしに決まってるじゃない。あんたの目は節穴? ちゃんと見えてる?」

「……見えてるよ。ちゃんとな」


(なんだか返答すんのも億劫おっくうになってきた)


 遼は一瞬だけ目をすがめるも即座に瞳孔を広げ、声を上ずらせつつも視線だけは逸らして両手を掲げる。


「そろそろキリがないから真面目に本題に移るとな、どうして急に学校に通えるようになったのか理由を教えてくれ」

「理由、理由ね。そんなの簡単よ。意外とあんたの方が検討つくんじゃないの?」

「俺が?」


 焦らされたようにも思えず、少し頭を悩ませてしまう。


 特に思い当たる節がなかったからだ。



 うーんと遼はない頭を捻り、


「ちょっと解らんなぁ。わりぃがヒントをくれ」

「ヒントって……ん……血の繋がり」


 僅かながらに間を挟む椿姫のヒントに、遼は「ああ」と納得をした。


 椿姫がどもったように見えたのは気のせいかもしれないし、しかし本当かもしれない。


 血の繋がりというある種の単語に、肉親やら兄弟やら連想ゲームのように類義語を巡らせるが、結論にははなっから至っていた。


 入学編入手続きを行うのはどこに協議を持ち込めばいいか――これこそ数がしれてるってもんだ。適当に言ってりゃ当たりに辿り着くだろうし、今の遼にいつまで考えることを放棄してんだよとかこの記憶からクレームが届いたって文句は言えずへつら笑っていそうだ。


 そろそろネタバレ時か? まぁもう少し待ってくれたってバチは当たらんだろ。


(学校の代表といえば当然校長。学園なら学園長。その上とくれば理事だが、んな知り合いは俺にはいないし、面識だってない故余計に皆目検討もつかない)


 それは椿姫だって置き換えていえることだが、ハードルを下げて確認してみよう。



 ここ出雲いずも高校。


(これだけいえばもう引っ張らなくてもいいんじゃないかと思うだろうが、俺の苗字も出雲という。先ほど椿姫はヒントで血の繋がりと言った。それは苗字に関してだってそうだ)



 出雲遼の父。名前を、出雲いずも和平わへい


 職業は、出雲高校校長。



「お前、俺の親父に会ったのか」



 導き出された明確なる解答に、椿姫は待ってましたと言わんばかりにツーンと澄まし、微笑を湛えていた。


「正解! その出雲和平。あんたの親父ってのにあたしは会ったのよ。経路は簡単。出かけようとドアを開けたらちょうどあんたの親父さんがいてね。話してたら中々盛り上がっちゃったわ。『遼の住む号室から女の子……まさか彼女!?』って目をひん剝いてさー、うふふふふ、誰が彼女だ!」


 おい、お前こそ一人でノリツッコミして盛り上がるなよ。


「まぁそんなこんなで馬が合ったというか、あたしが入学したいって言ったら一発OKしてくれたのよ。遼なんかよりずっと気前がいいわね」

「気前がよくなくて悪かったな……」

「あっ、そうそうそういえば」


 頭上あたりに豆電球を点滅させると、椿姫は今日始めて使ったであろうオニューの通学用カバンを漁り、一つの封筒を遼に手渡した。なんだこれ?


「あんたの親父さんがこれを渡してほしいって言ってたから。いやーすっかり忘れてたわね」


 素直に封筒を受け取った遼は糊付けもなにも施されていない封を開け、中の紙切れを四枚取り出した。


 最近に至り顔馴染みである、そして因縁の相手でもある――諭吉だ。


「わぁ四万円も入っていたのね! 良かったじゃないの!」


 純粋に喜ぶ椿姫だが、遼は素直に喜べない。


 家賃にも劣るこの金額だが、おかしい。妙な違和感を覚える。普通の視点からも四万という金額は十分大金だし、文句の一つをたれたいとは思わないが、しかし椿姫に指摘してやる点が浮上しているのもまた事実だった。


「椿姫、お前。本当にこの中には四万しか入ってなかったのか?」

「えっ、な、なによその言い方。まるであたしが封の中を勝手に覗き見したような言い方じゃない!」

「いや……だってこれ糊付けされた跡があるんだが。つか毎月渡されてる金額がな、五万なんだ。まぁ二ヶ月近く貰えてなかったんだけどな。減額されるんだったらなんか口頭で伝えるだろうし、手紙だって入っちゃいなかったぞ。お前、ひょっとして……」


 ジト目で睨みを利かし、核心に迫る。


「一万円取っただろ」

「ヒュー、ヒュー、え、何? あたしが一万取ったって? そんな人聞きの悪い! ないない、あるわけないに決まってるじゃないの」

「……」


 絶対に犯人だという核心が持てるのに、決め事となる証拠がなく立証することが出来ないジレンマを抱える新米刑事のような気分に駆られた。


 口笛で誤魔化そうとするとは性質たちが悪い。さてどう白状させるか……。


「……椿姫。あと残金いくらある?」

「へ、そりゃあもう一文無しに決まってるでしょ。懐が寒くて暖めてほしいくらいだわ」

「あれ、そうなのか? おっかしーなぁ、リビングの方に買った覚えのないお菓子のゴミが沢山散乱してたんだけどな」

「えっ、そんなはずないわ! だってゴミ処理はこのあたしがぬかりなく……あ」


 完全にボロが出た。


 遼流おかしな寒ギャグには見向きもツッコミも入れてもらえず少しショックだったが(オカシの)、すぐにつけ込まなければ隠し通されてしまう。


「鎌掛けてみたがやっぱりお前だったか椿姫!」

「あわわわ……」


 わざと憤慨してみせ机に身を乗り出すと、意外にも椿姫は手で顔を隠し謝罪方面に逃げた。


「じょ、冗談よ冗談、悪い冗談。めんごめんご。一昨日の出来事だったんだけどお金は全部使い果たしちゃったのよ。許してっ、ね?」

「……はぁ」


 なんだかんだ言って、最近は溜息しか出てない気がする。


「……まぁ一万だけで済んでよかったと考えるべきか。今月、まともな飯が食えると思うなよ。食費がほぼ消え失せたんだから、そいつを俺も背負ってやる。お前は自行自業としか言いようがないけどな」

「ということは許してくれるのね! やたっ」


 これは現金な、っとリアルに現金な内容だし、もう突っ込む気すら起きない。




「――おいっ、瀬央に話し掛けようぜ」

「え、お前が行けよ。俺は後ろからそっと行くから」

「なんだよお前チキンだな。よし、ここは一つ俺が手本を……」



 椿姫にどう叱正しようかと悩んでいたら、なんだか先ほどと似たり寄ったりの会話が耳に飛び込んできた。


 どうやら転校生である瀬央に話し掛けようと奮い立つものがいたようだ。結果が気になる、遼は少し視線を移す。


「ご、ごほん。あのー、瀬央さん。俺、速道はやみちっていおぅわっ!」


 デジャヴ……こんな光景どこかで見たことがあるな。どこだっけ?



 どがっとかいう壁に体当たりでもしたように音が響くと、そこには速道という勇猛果敢な男、ではなく見知ったでかぶつ、鳥羽の野郎が変な笑みを浮かべていた。


 しかし瀬央は興味がないといった表情でそっぽを向いている。


「瀬央さん。僕鳥羽っていいます。僕と友達になってください!」

「……きもっ」


 視線が鳥羽に集中する最中、発したのは遼だった。


 なんで敬語な上に僕口調なんだよ。んな流暢りゅうちょうに喋んなよ。


 対する瀬央はといえば、


「……うちはお前なんかに興味はない」


 ばっさりといったー!


 これはざまぁみろとしか言いようがないが少しくらい鳥羽に同情してやってもいいかもしれない。


 椿姫の方も「うっわー」と復調戻っていた。


 玉砕の峻拒しゅんきょを受けた鳥羽は身を震わせると、床にへたり込んだ! しかもこのポーズ、ネットで見たことがある。


 ……ああ、流行りのorzってやつか。


「いや流行ってないから」


 椿姫がどうでもいいように指摘してきた。


 そういえば、さっきの遼と椿姫の会話の時にも視線が集まっていた。


 転校生相手に昔からの旧友のように話し、さらには金の話にまで発展していたんだからある意味当然か。


 遼が瀬央になんとなく顔を向けたのと、そして瀬央の方も横目でみたのと同時に、教室の前ドアが開き御堂が入室してきて、どんな手品でも使ったのかピタリと喧騒は止んだ。



「遅くなったな。それじゃHRを始めるぞ」





                       $ $ $





 HRという名のLHRが終わり、自動解散となった。


 先に決めておこうということで決定したクラス委員長は梨璃雪の推薦のもと、またも天夜織となりC員長あだ名継続が確定された。


 よかったなC員長、また委員長の役員につけて。


 唯一気掛かりなことといえば、ここがB組であるという点だ。Bに対してCってどうよ。B員長?


 見事女子にお鉢が回り掃除当番から外れた苗字あ行の遼は、学校の真横にある寮に帰ろうとするお気楽な学生達の人混みを避け、一階降りた一年の廊下付近で御堂と接触した。


「御堂!」


 先制に名前を呼び捨てる。


「おいおい、呼び捨てにするな。お前より目上でもあり今は教師だ。先生を付けろ」

「む……それもそうか」


 尤もなことを指摘され、思わず納得する。


(確かに、新しくやって来たばかりの教師に対して呼び捨てとか、どこぞの不良だよって話だわな)


「じゃあ改めて。御堂先生!」

「思いっきり違和感あるな」

「おい! 自分で言っておいて! というかむしろそれ俺の台詞だろ……」

「そんなの、どっちでもいいだろう」

「なんなんだのらりくらりとこの茶番……! ……御堂教諭、どうしてあんたがここに新米教師として来てんだよ」

「ほう。次は妥当なところで攻めたか」


 感嘆しているようだ。それこそどうでもいいが。


「教師として来た理由か。まぁ言うなれば潜入工作員だな。そんな役割を仰せ仕り俺はここに教師として就いた。無論、お前の親父にも出会い含有理解はしている」

「狙いは……やっぱり俺らなのか?」


 複数形で訊いたのは、椿姫を含めてのことだ。


「そうだな。そういうことになる。だがこれだけは覚えておけ。俺は、お前らの見方としてついてはいるとな」


(……まぁ、それぐらいは察していたし、俺達だって御堂を信用している状態ではある)



 一年生は早々に終わっていたのか全く人影が見えず、むしろ好都合になっている。


 聞かれでもしたらあまりよろしくない内容ではあるからな。



 遼は鼻の上を掻くと、次に頭も掻いた。



「これ以上首を突っ込むのもアレだし……気になる点といえば、俺のクラスに転向してきた瀬央なんだがな」

「ん、遼よ。自身の力で気付けたのか? あいつの異能力アブノーマルに」


 少しばかり驚いた表情を見せる御堂。


 心中では呼び捨てにしたっていいだろめんどくさい。



 変なわだかまりを覚えた遼の予想はばっちり的中していたのかもしれない。


「いやたまたまかもしれないと思ったが、あいつが横切った時、一瞬全身にもやをまとわせたような干渉に浸ってさ。そんでもって懸案事項として抱いていた」


 なるほどな、と御堂は相槌を打つと壁にもたれ掛かって言葉を投げた。


「勝手に納得させてもらった。教えてやろう。あいつ、瀬央揺寒は謎力パステリアスを含有した未来パステレス革命ロードに所属するメンバーの一人だ。差し支えなく生徒として潜入し、俺同様に工作員的立場だが、いて言うならあいつは俺らを含めた監視を主ともしている。怪しい動きがないようにな」


 長ったらしく述べて、最後は至誠しせい染みた沈思を追った。


 上乗せされた監視役というわけか。


 しかし『俺ら』とはどこまでの人数で区切っている?


「まさか、とは思うがこずえの奴も転校して来てるんじゃ……ん? どばはっ!」


 チラッと人影が見えた。そのまさかだった。


 ぶっ飛ばされた遼は宙を舞い、盛大に廊下に這いつくばると、体躯たいくを捩じらせた。


(これほどの力を持つもの、やはり梢か! と核心に迫ることはなく、なぜって俺を吹っ飛ばした人物には心当たりがあったからだ)


「いやっほー! ぉひさだねっ!」


 第三者なる人物といえばその通りだが、久しぶりの挨拶がこれっておいおい。


 相変わらずとしかいいようのないお前は……


「この野郎! 廊下の味を俺に噛み締めさせてなにがおひさっぐう!」


 文句の一つでもたれてやろうとした直後、背後に回られ小柄な体でヘッドロックをかまされる。


 だっ、誰か助け、助けてくださいっ。こいつ容赦ねえから絶対に殺されるっ。


「ぃやー、ぁいたかったよー? まるで生き別れの妹であるふりるが兄との感動の再会を果たしたよぅ……」

「ぎっ、ギブ、ギブッ! ロープゥゥゥゥ!」


 悲劇めいたヒロインの役を演じる女とは対照的に無我夢中で掴む物を探すもスカってしまうのは空気を掴んでいる証拠。


 遼の首を捻じ曲げる女は深刻な状態にやっと気付いたのか(おせェ……)、まるでドン引くように「ぅわっ」と退嬰たいえい、手遅れながらで離れた。



「…………」



 見事に落とされ魂が抜けたように沈黙する遼。


 物言わぬ屍の正体は、実は遼でしたというなんともマヌケなオチつきだ。


「ぁっちゃー。ゃっちった」


 罪を感じていないのか、罪悪感に駆られてないのか、どっちも同様の意味ではあるが履き違えてならないのは、こいつに反省の色が見えるのかどうかという点にある。


「どっ、どうしたんですかふりるさん。急に突進なんかかまして……わっ、遼さんじゃないですか。というか死んでます?」

「いっ、生きてます! ごっふ、勝手に人を殺すんじゃない!」

「わわっ」


 僅か数秒程度で蘇生を果たす遼。それに驚いた梢がバランスを崩して尻餅をつく。


(やっぱりさっきチラッと見えた人影はお前だったか梢)


 しかし今はお前なんぞに用はねえんだ、優先順位ってもんがある。


「おいおい。俺の大事な一人娘なんだから、手荒にあしらってくれるなよ」

「やかましい。少し黙っててくれ。俺は今憤慨してるんだよ、あいつに!」

「ふぇ?」


 びしっと指差すもそいつは立場を弁えていないのか、もしくは状況が把握出来ていないのかあっけらかんに取られている様子で、キョトンと目を丸くしていた。



 ――さて、今からだな。喜劇という名の逆襲劇が展開されるのは。ここでは遮二無二お伝えしていこうと思う。

文字数大幅に増やしたZE☆

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