第三話 賽銭泥棒
時は夕暮れで、体感的に暑いと感じたのは出てすぐのことだったらしく、次第に陰っていく空を眺めるのも、彷徨った挙句に辿り着いた公園のベンチに腰掛けた時だけで、今といえば何をする当てもなく結局のところ市街地辺りを右往左往としていた。ぶっちゃけると余計に疲労を重複とさせただけだし、腹もかなり空いてきた。正にぐうの音も出る。
「はぁ。腹減ったなぁ。これからどうすっかなぁ。金欠だし、行く当てもないし、まっ、その分有り余った時間と帰る当てくらいはあるが……ん?」
ふと横を見遣ると、石段が連なったように配置され、天辺には狐の像が左右対称に佇んでいた。いつもの遼なら素通り、もしくは気付かない内に通り過ぎていたことだろうが、今回は異なった。
遼を取り巻く雰囲気だろうか。
抽象的ではあるが、こんな生命に関わる状況(ただの金欠)に置かれ、意識的にも居ても立ってもいられずに逃げるように外へ出たのと同義必須で、神頼みとかオカルト染みたこと云々、現状の打開を切に願う一端の高校生を演じる遼にとっては、足を動かさず石段を駆け足で登る所作は不可能極まりないことだった。
現に一段飛ばしの軽やかなステップで石段を容易に駆け上がっているのだから、強ち以前に間違ってはいないだろう。
――ようは賽銭泥棒を決行しようと思考を悪い方向に働かせていたのだ。