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金の力はパステリー  作者: 河合 翔
金の力はパステリー(2)
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第四十五話 二人の転校生

「転校生か。正直なところ、少し気になるな」

「ん、そうだね~」


 教壇から降りた御堂はドア元まで行くと、律儀にもドアを開けた。


「またせたな。入ってきてくれ」


 C員長の言葉通り転校生はやって来ていた。


 ついにご対面となるわけだ。



 とことこ。



 ゆっくりと足音をたて、教室内に入ってくる女の子。



(――喜べ鳥羽。お前のご希望通り女の子だったぜ。それも超絶可愛いな)


 ヘアピン二つに髪留め二つ。


 遼から見て両方右っ側に荘直した元気溌剌そうな女の子。


 あくまで想像だ、言葉すら交わしてないんだからな。


 転校生はチョークを握ると、綺麗な字体で自分の名前を書き出した。



瀬央せお揺寒ようか



 それが彼女の名前のようだ。


 転校生は振り返ると淡い蒼髪を掻き揚げ、りんました口調で自己紹介を始めた。


「瀬央揺寒だ。至らぬ点もあるだろうが、それなりに接してくれ」



 ……予想に反して、女にしてはえらかたくなな喋り方をするな、いや、これじゃあただの偏見へんけんか。


 性格とか何も解ってねえのに憶測おくそくだけで決め付けるのは、確かに性質たちが悪い。


「瀬央、お前の席だが一番後ろの列の左側。あそこが空いているだろ、そこに座ってくれ」

「……」


 御堂に首だけで返答をして、遼、梨璃雪の横を通って席に向かおうとする瀬央。


 

 ズクズクズク。



「んっ……」


 瀬央が遼の横を過ぎた時、なんともいえない軒昂けんこうに駆り立てられた。


 左指が痙攣けいれんを起こすようにピクピクと震え出す。


 だがほんの数秒程度で揺れは止まる。


(この現象は……)


 すぐさま思い当たる節が脳裏にかこつける。


 前にも椿姫と一緒にいる時似たような現象が起こった。


 完全に確定したと決め付けるにはまだ証拠不十分で終わりそうなのだが、遼は気になって顔を後ろに向けた。



 瀬央は座って頬杖をついていた。


 遼の視線には気付いてない様子で、いやただ単に興味が無いだけかもしれないが、その二つのひとみには退屈という陰りの色を秘めているようにも見えたのだった。


 根拠の無いホントどうでもいい話だが、


「さて、これで転校生紹介が終了したわけだ。やっとな――と言いたいところだが、実はまだ終わってないんだよ」


 黙想をするように御堂は一瞬だけ目をつむると、再び口を開けた。


「長らく待ってもらっていたが、もう入ってきてもいいぞ。簡明に紹介を済ませてやってくれ」

「ホント待たせすぎよ。人をなんだと思って……じゃなかったわね。い、今入るわっ」



 ……ん? この声。この小生意気な口調。


 どこかで聞いた覚えがあるぞ。


 いやどこかと言わずにはっきりと、一日一回は耳にしていた覚えがある。うーむ、誰だったかなぁ……。



 わざとらしく首を傾げて悩むが、実際のところ本当に解らないのだ。


 考え事をしていたせいか、もしくは集中力を切らしたからか。


 ハテナマークを頭上で旋回させつつ、遼は入室してきた二人目となる転校生の顔を視界に捉えた。


 そしてすぐに怪訝けげんを通り越した驚愕なる顔に変貌へんぼうを遂げる結末が待ち構えていたわけで、


「……ハッ?」


 呆気らかんに、それとアホ面に馬鹿でかく口を開けた遼。


 回避不可とかそりゃあこうもなりますよ。


「えっとっ、か、金子椿姫って言うわ……よ、よろしくっ」


 頭を下げることなくまるでそっぽを向くように目線を窓の外だったりに移す椿姫。


 どうやらてんぱっているらしい。


 微妙に顔が引きってるぞおい。


 つか根本的なとこ突くとなんでいるんだよおーい。



 ちょんちょん。



 横から梨璃雪に突っつかれた。


「(遼ー。席、着きなよー)」


 小声でささやかれ、さらに「うん?」となる。



 全く何言ってんだよ。


 席になどは初めから座って……るぇ?



 気付いた。



 なにやら無駄に高い位置から見えているなと思ったら、そうか、そういうことか。


 ガタンと遼は音をたてまたも椅子に背中を預ける。


 

 ……どういう仕様か、遼には驚きゲージが一定を超えると気付かないうちに立ち上がるという、ああ、そうなの現象が起こってしまうようだった。


 ああ、そうなの……。


「……ふむ。瀬央の横にもまだ空きがあるな。金子、お前は後列の左から二番目に座れ」

「解ったわ」


 瀬央と同じように遼と梨璃雪の横を通過する椿姫だが、顔を合わせないのはどういった料簡りょうけんか、ぜひともおきしたいな。



 不意打ちとして腕でも掴んでやろうと思ったが、やめた。


 わざわざ火種をくような真似なんて、こっちから遠慮しておきたいし。


「遼は椿姫ちゃんが転校してくるってこと知ってたの?」

「知らん。初見であって初耳でもある。今において全てが謎だよ、ったく」


 遼は考えることを放棄すると、もう一回だけ溜息を吐いた。


 始業式当日、僅か数分程度でクラスの総員が三十七人から三十九人に変わった。


 わだかまりの心情を抱える遼に、梨璃雪は心配そうに瞳を伏せる。



「転校生紹介は本当にこれにて終了だ。俺は今から諸事情を挟み一旦職員室に戻るが、静かにしていろよ」


 小脇に荷物を抱え早足で教室を後にする御堂。


 ドアが閉まるのを確認したところで、罪悪感の欠片も無いようにクラスの連中が騒ぎ始めた。


 無論、遼とて例外ではない。


「御堂先生カッコよかったねー」

「そうだねー。でも既婚者なのかぁ。ショック~」

「おい、あの瀬央って子可愛くね? くぅー、俺このクラスになって本っ当に良かったぜ」

「んー俺としちゃあ金子椿姫派だなァ。瀬央に比べて胸はねえけど、あのつんつんした性格は見逃せないポテンシャルだ」


 クラスで飛び交う新任教師と転校生の話題。


 じっとしてるだけで耳に入ってくるも、遼はいてもたってもいられなくなり、席から立ち上がると腕を振りながら椿姫のもとへ向かう。



「お、俺。金子に話しかけてみるよ」

「おうっ、いったれ!」

「……よしっ、あの、金子さ、うわァ!?」


 ドンッと誰かの肩とぶつかったような気がしたが、んなこた知っちゃこっちゃねえ。



 椿姫の前まで着いた遼は抑えたつもりだったが、机に左手を叩きつけ、あくまで冷静に言葉を投げ掛ける。


「どーしてお前が学校に来てるんだ? それも転校生として。どうやって編入したんだよ。タネはなんだ? 今なら解答権を与えてやっ、」

「ああっ、口をつぐめっ! 矢継ぎ早に疑問をぶつけんな!」

「むがむが……」


 一つ一つ問いただしてやればよかったのか、椿姫は手を伸ばすと遼の口を押さえキッとにらみ付けた。


 どうせまたお怒りの一言が飛んでくるに違いない。



 未来を先読みする遼は先ほどから項垂うなだれるばかりである。

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