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金の力はパステリー  作者: 河合 翔
金の力はパステリー(2)
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第四十四話 担任の先生

 着地に見事成功したC員長はどうだまいったかと言わんばかりに無い胸をらし、へたりこむ鳥羽を見下ろした。


「正義は勝つんだよ」


 何を基準としどこが正義なのか判断に困ったのは遼だけではないはずなのだが、わざとらしく目線を横に背ける居間の心情を今しがた誰かに理解してもらいたい。


「遼君っ。しいちゃんとも同じクラスだね!」


 まさかとは思うがこの台詞を吐くためだけに鳥羽は犠牲ぎせいになったのではないだろうか、と疑って掛かるのはよくないな。



 自粛じしゅく云々いい言葉が見つからない。



 スルーしたら逆に後が怖いため、いちおうまともに返答をしてやることにした。


「そうだな員長いんちょう。またこの一年よろしく頼むぜ」

「がってんだー」


 高らかに拳を突き上げるC員長。


 因みにあだ名の由来は去年一年C組だった時に、一年間丸々委員長を務めたことが発端だ。


 まぁ簡明にぶっちゃけると、名前とクラスを被せただけだが。


 誰も立候補せず静寂せいじゃくの火が灯っていた教室に「はいはいはーい!」と元気よく挙手を決めたC員長の勇姿は今でも鮮明に覚えている。


 腰辺りまで伸びたロングヘアーは船隊もののレッド色。


 幼い表情からは純粋無垢なものしか読み取れず、小学生と間違えられたってなるほど納得してしまうほどだ。


 そんなロリっ娘は頭部に乗っけていたヒヨコのようなぬいぐるみ(?)を掌に移し遼と接する時みたく喋り掛ける。


「Vちゃんも嬉しいよねー?」

『ぶいぶいぶーい!』

「だよねー! ほら、Vちゃんも歓喜の声を上げてるよ」

「は、はぁそうか」


 こめじるし、こいつを前文にピタッと引っ付けてやることにしよう。



 ※生き物ではなくぬいぐるみ。



 ……二度手間、だと遼は思う。


 C、V、Cと並べたら単語になりそうな順だが、高二にもなって人前でぬいぐるみに話しかけるような真似は控えた方がいいんじゃないだろうか。


(いやまぁ個人の自由かもしれないけどさ、いちおうな)


「一年生の頃と似たり寄ったりのメンバーが集まったもんね~。私は遼と同じクラスになれて嬉しいなぁ」

「んん」


 ……その発言はちょっとした誤解を招くはめになるかもしれないぞ?


「そりゃま、俺も……な」


 僅かながらの恥じらいを込めてくるみ返る遼。


 さることながらちゃん付けから呼び捨てに昇格を果たしたわけだが、梨璃雪りりせいわく君付けにするくらいなら……と間を置いて言ってくれた。


 なかなかどうして幼馴染からの名前呼び捨ては甘美な響きとして耳に届く。


(残りの希望としては大和男子、勇ましい名前が欲しかったとか言ったら今度は親がむせび……泣きそうにねえよなぁ)


「あっ、そうだ思い出しちゃった」


 唐突に、C員長がこんな発言をした。


「うちのクラスにね。転校生が来るらしいの」

「マジでッ!?」


 食い付いたのは鳥羽兎貴。


 飛び跳ねたのも鳥羽兎貴。


 転校生という単語に釣られるその気持ち、解らんでもない。


 きっとお前は今こう思っていることだろう。



 男、女、どっちなんだよ! と。



「それでよ、転校生は女なのか? それとも美少女なのかっ?」


 図星ではあったが、あくまで女にしか興味が無い鳥羽兎貴であった。


「そ、そこまでは解んないよ……オタきんどんびきぃ」


 筋肉を震わせて近付くと場に後退るC員長。


 ずばり呼称するオタきんとは、オタッキーな筋肉野郎から来ている。


 筋肉オタク、略してきんオタにすると、筋肉をとことんきたえ上げるだけの奴だと勘違いされそうなので、晴れてオタきんと呼んでいるらしい。


 そんな命名にうまいもんだなぁと遼は関心をしていた。



 ――その時だった。



 絶妙なタイミングで扉を開き入室してくる長身の男。


 ものすごく見覚えがあるあの人物。


「あー悪い、遅れた。つかまず席に着いてくれ」



 ――なんてったってよ。その男は、



御堂みどう智久ともひさ……っ!」

「えっ何、知り合いなの?」


 他のクラスメイト達が席へ戻る最中、遼は御堂に釘付けになっていた。


 御堂の方はお前がいることなんて初めから知っていたと言わんばかりの悠長ゆうちょうな態度で机の端を掴み、相変わらずのポーカーフェイスを保っていた。


「遼、とりあえず座りなよ。ほら」

「……」


 どうやら、遼自身気付かない内に腰を上げていたようで、隣席に身を置く梨璃雪にうながされるまま席に着く。決してあいつの指示に従ったからではない。



(……なんで、あいつがここにいる。春休み、円満な終わり方を遂げたのは事実だが、今回の登場ばかりは意図が知れない。今度は、何が狙いってんだよ)



「――よーし、みんな席に着いたな。それじゃあ俺自身の自己紹介といく。このたび、東京からここ出雲いずも高校へと単身赴任して来た御堂智久だ。んでこの二年B組を受け持つことになったわけだが、始業式の際紹介に預からなかったのは、あー、あれだ。単に遅れてきただけだがな」


 どうりで見ないと思ったらとクラスの一部から笑いが沸く。


「まぁそういうわけで、担当す科目は国語表現ⅠとⅡだ。これから一年間、よろしく頼むぞお前ら」

『よろしくお願いします』


 温厚篤実に場の流れを変える御堂ではあったが、まだ緊張を解くわけにはいかない。


 気を抜いたが最後、壮絶なオチが待っているわけもなくと一概いちがいにも否定しきれないんだからな。


 クラスの担任と聞いたときはそりゃ驚いたが、いちおう慎重に物事を進めておいて損はないだろう。


「はいはーい。質問です。御堂先生の歳はいくつですかー?」


 クラスメイトの一人が言った。


「質問タイムを設けたつもりはないんだがな……まぁいいだろう。歳は三十三で、誕生日は二月二十二日とトリプルツーを示している」

『おー』は一同。

「あ、じゃあ次私が。えっと付き合ってる人はいますかっ」

「付き合ってるというか結婚はすでに済ませているな。この歳で子持ちでもある」

『えー』とまたも一同。


 教室がわいわいがやがやとにぎわい出した。


 ほんの数分程度でクラスメイトのハートをキャッチした御堂。


 生徒との接し方をこころえ、人気も十分な御堂が根っからの悪の権化ごんげと言えるだろうか。



 ……答えは否だ。


(前回姿を現した時の御堂だって本意からではない必要悪を演じていただけだったし、そうだ。娘のこずえだって守ってやれる立派な父親じゃねえか)



 遼は思い違いをしていたのかもしれない。


「いい先生だね」


 隣から顔を近付け同意を求める梨璃雪。


「……ああ、そうだな」


 御堂への警戒が変わった。


 過去は過去。今は今だ。


 引っ張っちゃいけないしキリがない。


 順路に沿った進め方を履き違えさえしなければ特に問題視する必要性が皆無かいむに等しいからな。


「おっと、俺としたことが。それなりに盛り上がっているところ歯止めを利かせるとな、転校生を紹介するぞ」

「転校生?」

「情報は正しかったってわけだ」

「うおっしゃーっ。転、校、生、ヒャッホーイッ!」


 御堂の発せられた一言により、クラスはさらなる喧騒けんそうに包まれ始めた。


 因みに無駄にテンションの高い野郎が一人混じってるが、言わずもがなとしれた鳥羽の奴だ。



 まっ、結局言ってるけどな。

4,4が並ぶとは、不吉です。

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