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金の力はパステリー  作者: 河合 翔
金の力はパステリー(1)
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第四十二話 バカ正直な男

「あんたは俺たちを見逃すことにしただろうが、他にさらなる刺客が訪れるかもしれないんじゃないのか。だったら今回の二の舞だ、それだけは勘弁したいっ」



 当たり前だろう。



 もしもまた襲ってこられたりでもしたら今度は間違いなくやられる自信がある!


 どうだ? 止め処ない自信に満ち溢れているだろう。


「安心しろ、ちゃんと手は回しておく。確かにお前はコア、後方にいるは金のパステリーを持つ金子椿姫だが、上の者がほおっておくわけがない。知られるのが時間の問題だとしたら俺は逆を突く。こちらの策にはまるかは運要素も混じるが、まず意図に気付かれることはないだろう。それじゃあ、今までどおりに元気に過ごすがいい」

「さよならです。ホントごめんなさいでした。また会う機会があれば」


 御堂はきびすを返し、梢は律儀にお辞儀を入れ、今度こそ去っていった。



 遼はまだきたいことがと再度呼び止めようとしたが、椿姫に袖を引っ張られ振り返る。


「あのさ、遼」


 なにやらモジモジとしている。



 何だよ。またトイレか? と忌憚きたんいっぱいに言葉をにごしはしない。


 絶対言うまいと踏ん張っているのだ、決してトイレじゃないぞ。



「さっき、でいいんだっけ。いや、どっちでもいいんだけど。その、今度は面と向かってきちんと言うわ……遼、私行くことにする」



 …………どこに?



「あの人たちについてくって意味じゃないわ、別でよ。本当に助けてもらったことには感謝してるし、改めてお礼を言わせてもらうわ。本当に、ありがとう。現実離れした有り得ないことが目の前で展開されたり、自分が人間じゃないとかいろいろあったけど、くじけず突っ張ることにする。だから、」

「何がだから、だよ」



 ――椿姫の真面目な語りではあったが、一蹴いっしゅうしてやることにした。



「要は迷惑掛かるので出て行きますってことだろ? 遠回しに言ってくれやがって。最初なんの話かと思ったぜ。ふんっ、どうせ行く当ても無いくせに意地張ってよ」

「い、行く当てならっ、」

「まぁ待て、神社にあるほこらとかは駄目だぜ。衛生的な意味でもな。それによ、もう椿姫個人の問題だけじゃ無くなっちまってる。俺なんて『コア』だからな。よく解らんがすごいんだぞ。……コアだけに核心にせまるとな」



 御堂ではないが、一テンポ置いてから口に出す。



 こっぱずかしいとは正に今をさす言葉に違いない。



「俺がお前と一緒にいたいんだよ。文句云々異論は受け付けるが、聞きはしない。これは独り言みてえなものだからだ。っと御託ごたくは以上として、いていい。俺の住むあのボロアパートで我慢出来るならの話だが、どうだ。悪い条件だろ?」

「遼、それ。自分で言ってちゃわけないわよ。ホント悪い条件じゃない」

「だろ? な、割に合わない話だろ?」



 ――そう。遼は根っからの正直者。



 この十七年間バカ正直に生きてきたのだ。



「そうね。言っちゃ悪いけどこっちから願い下げの遠慮したい状況。でも……そ、そこまで言うなら、断るに断れないじゃないのよ。もう。あたしも、遼と一緒にいたげるわ。その、これからも、よろしく」


 途切れ途切れに言葉を発しつつ、恥じらいを込めての面持ちを表しながら、すっと手を差し出してきた。


握手あくしゅ


 見れば解るが意図が知れない。未知数の手伸ばし。


「意図なんてない。ただなんとなくよ」


 どこかで似たような台詞を聞いた覚えがあるのは気のせいにでもしてやり、遼はといえば、次に何をしたか?


 愚問ぐもんだな。


 取るべき行動は一つしかあるまい。



「握手、な。おう、これからもよろしく頼むぜ椿姫」

「ええ、よろしく。遼」



 はたから見ても何に対する握手か理解が及ばないだろうが、かまやしない。


 とりあえず遼たちの通じ合うキーワードは『なんとなく』の一点縛りで決定だ。



「あ」



 何かを思い出したように手をほどいた椿姫は、慌てふためき始める。


「そ、そういえば銀行の件がまだ済んでないじゃない。どうしよう……!」


 くだんの銀行とは、椿姫が知らず知らずの内に金を呼び出し、銀行元の金を無にしてしまったことだ。



 確かにそんなこともあったなぁ。


 今じゃ懐かしい感慨かんがいのみに浸れる気がする。


 狼狽うろたえる椿姫に、妙な落ち着きで安心をさとす遼は空き地の端を指差し、兼摂けんせつ違いに人相を良くして愛想笑う。


「なーに大丈夫だ。なんせ俺たちには椿姫がどっからか呼び出したきんがある。真っ二つに割れて分裂しちまってるけど、これでも十分元と上重ねしてチャラぐらいにはなってくれるはずだ。多分」

「なるほど。でもこれ、ん、お、重いぃ……ちょ、運ぶなんて無理そうなんだけど」


 拳の跡を残す金塊に手を掛ける椿姫は、汗水たらし弱音を吐く。


 当たり前と予想が付いた遼は、ついでに嘆息を吐いてやる、椿姫に対して。



「な、何よその意味深な溜息ためいきは」

「いやな、もう少し頭をひねろと……ああわりぃ、つい本音が出てさ、こほん。ほら、よく思い出してみろよお前自身の能力を。つか言ってみろ」

「え、そりゃお金を自分の場所に移動させる、」

「はいストップ。そこだ。移動という単語、ここがポイント」


 ちっちと指を振ってやり、きんをバンバンと意味も無く叩く。


 むなしくこだまする金響き。


「つまりはだ。金を自分のもとへ移動させることが出来るなら、反対に自分の場所から他の場所へ移すことが出来るはず! 多分」


 おお、と感嘆をらす椿姫。


「すごい! その発想は無かったわ! あ、あんた頭いいわね……でも多分って何よ。自信なさげに」

謙遜けんそんしてるのさ、これでもな。正直なところ、うまくいく確立だって乏しいだろうしな。なぜって力のコントロール出来ないだろお前」

「そりゃねぇ」


 梢とのバトルで発動した力も無我夢中で放っていたものだし、祈って出来りゃ誰だって困りはしない。


 現に今困ってるってことは、やはり厄介ここに極まらんとするな。


「じゃ、じゃあどうすればいいのよ」

「そうだな、まぁいちおうだけども俺にいい考えがある。練習兼ねてで、俺の部屋に送ってみろ、きん二つを。すぐそこで近いし、物は試しだ。当たって砕けろって言葉があってだな。それは、」

「解ったわ! あたし、やってみる」

「おおう」


 話キャンをくらったところで、遼は後退り、椿姫は金二つに手をそえて目をつむると、祈りを始めた。



「届け届けぇ……!」と連呼して。



「集中しろよ! お前ならきっと出来るッ!」


 ガッツポーズに常套句じょうとうくを加えてやり、応援のエールを上げる。


「あたしなら出来る出来る……」


 感化されたように言葉を変え、両手を金色に光らせ始める椿姫。そして、



「――せえい!」



 掛け声とともに二つの光は消えた。



 一つは椿姫の両手、もう一つは黄金に輝くきん


 それと同時にドゴンッと地を揺らすような大きな音が、遼の住むアパートから耳まで届いた。



 成功したか! と歓喜に震える手前ある不安が頭をぎる。


 待てよ、人の力で持ち上げられないものが宙から降ったりでもしたら、状況によっては底が抜けかねない。


 ましてや ボロアパートの一室なら尚更、自室は二階だから間違いなく穴が開き、一階にドシンと金の柱を構えることに……ま、まずいっ!


「は、走るぞっ」


 破裂しそうな心臓音にかされ、椿姫と共にダッシュでオンボロ荘へと駆ける。



 しかし辛い。


 予想以上に辛い。



 大分回復がおっついているのだとしても、やはり体力の限界が垣間見え、



「――はぁ、はぁぁ」



 息も絶え絶えに死ぬ思いでアパート二○三号室まで辿り着き、気後れしつつも思いっきりドアを開けた!


 するとそこには予想外すぎる光景が視界に飛び込んできた。


「一体どうな――おおうっ!?」

「え、何、結局どうなって――……?!」


 少し遅れて現状を目の当たりにした椿姫は無言で疑問符だけを浮かべ、遼は顔の至る部分を引きらせて、最終的に笑い顔にまで変化した。



 今二人が見ている光景、それは入ってすぐ右側に埋め込まれた、きんの塊、それぞれ別の箇所に二つづつ。


 こういう場合は突き刺さっているというのが正しい表現か。


 無残にも壁の甲はがれ落ち、パラパラと白い粉が降り積もる床。


 位置的には二○三号室と二○二号室の間に突き刺さるきんは壁に穴を開け、向こう側が見えてしまっているではないか。



 はは、あははははは。



「はっはっはっはっは! ……笑えねえ」

「……笑ってるじゃん」




 ジト目椿姫のツッコミが、やけに心中に響く遼だった。




――エピローグも残していますが、話数だけでいけばこれが一巻分ラストです。


やっとここまできた! そう思える自分がここにいます。

今まで何事も途中で投げ出してきた自分ですが、ついに一巻分完結を迎えるまでに至りました(ツヅキマスケドネ)。

今日は8月31日。ちょうど区切りもよくいい感じですが、次回エピローグでラストです!

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