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金の力はパステリー  作者: 河合 翔
金の力はパステリー(1)
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第四十一話 親子

 もう駄目――そう思った椿姫は、目の前に誰かが姿を現したのに気付いた。



 ゆっくりと目を開け、正体にハッとした椿姫が尻餅をついたままで次に唖然あぜんと口を開ける。


 汚傷した服を身に着けた大きな背中を視界に捉え、風圧か威圧か吹き付ける空気の中心に陣を構えた遼から、椿姫は涙ぐんで情報を入れる。



「遼……っ!」

「おうっ、遅ればせながら復活したぜ!」



 生気を帯びた遼の顔は強気にも笑みをたたえ、グーをにぎる手を梢の握る手にぶつけ合わせていた。



「また、またなの! あなたは何度立ち上がれば気が済むんですかっ!」


 遺憾いかんぬぐえきれずにいる梢はついに声を荒げて、手から手へと移る光はお互いの両手を光のうずに巻き込み火花を散らす。


 確かに梢の言いたいことは解る。


 先程まで全身に麻痺を行き渡らせていた遼はどうして急に身体の自由を効かせるまでに回復出来たのか、種明かしは単純すぎるといっても過言ではない。


 椿姫がきんを降臨させ反響を呼んでいたのは数分にも及び、その間力の集中を試みていた遼の意欲はどこかに届いたようにみなぎり、それが能力による効果だと実感するのはさして時間は掛からなかった。



「悪いが気が済むことは今回以降ないだろうよ、俺だしな。ただ、茶番劇に終止符を打つ役目だけは俺が担当させてもらう。異論は、認めない!」


 回答になっていない返答を寄越してやり、力を込め突っ張る。


 力み過ぎずに足を蹴り出し、ゴリ押しともいえなくはない全体重かけの葛藤かっとうとともに高らかに咆哮ほうこうを上げた。



「うおおおおおおおおおおおおっっ!!」



 すでに放たれた一撃に渾身こんしんの威力を込め直す。


 たとえ右腕が破壊をともなってもかまやしない。



「ただ、打ち破るだけだ!」

「くぅ、今までとは段ちで、私が、圧されて、そんな……う」



 それ以上は喋る余地すらないようだった。



「てえやあぁあああああ!」

「きゃあああああああっ!」



 全ての勢いがまさり、拳が上回り、気力の面でも超越を呼んだ。




 遼が押し切り、勝った――




 かされた梢は一瞬宙を舞い、すぐさま地面を滑り砂埃をたて止まる。



 梢は動かずにうずくまったままだ。



「はぁ、はぁ、はぁ」

「か、勝ったの? ……遼」


 息を荒くは膝に手を当て息を整えようと深呼吸を始める遼と、よく解らない面持ちを浮かべ座ったままうろたえる素振りを取ろうとする椿姫。


 予想だにしていなかったと口を開け目を見開く御堂の目先、梢は産まれたての子鹿のようにぴくぴくと腕を震わせながら立とうとするが失敗。


 立ち上がる気力すら残っていないらしい。



 そして椿姫に対する返答だが、


「いや、まだだ」

「えっ?」


 息を整え、足と手を律儀に揃えた梢の元に駆け寄ろうと足を動かした。



 倒れた梢はうつろゆく目で遼を見上げ、殴り掛かろうとするモーションを視界に捉え「い、いやぁ」となんとも潮らしい泣き声を上げて、涙を流しギュッと目をつむった。


 遼は特に躊躇ちゅうちょすることもなく血をしたたり落とし、顔面目掛けてパンチを繰り出し――



「や、やめろっ!」



 止めた。



 第三者、否、椿姫でも梢でも、ましてや目が覚めてはいない伯父の線も否定。



 御堂本人が野太く、はっきりとした声で叫んでいた。



 長身の体を動かし、梢の元へと駆け寄り、



「叫んでくれたか……」



 独り言みたくぼそり呟いた遼は、後方に退避、口は開けたままで、



「殴るわけねえだろ。その子を、もとより寸止めより手前でわざと止めるつもりだったからな……いつつ」


 今度は反対に椿姫のところへ戻り、体力失ったようにへたりこむ。


「どういうことなのよ遼。言ってる意味がよく解らないんだけど」


 距離を保つ椿姫は遼に向き合った。


「今教えてやるよ。えっとだな、確定したとは一概いちがいにもいえんが多分あいつらは親子だ、父と子の関係をもつ。そうだろ」


 うずくまる梢を抱き寄せ、ポーカーフェイスに戻った御堂は「よく解ったな」と立ち上がり、歩数を前に出す。



 やはり合っていたか。



 遼は内心を固め言葉を投げ掛けて立ち上がる。



 勝ったといってもボロボロなことに変わりはなく、力もほんの少ししか残されていない。


 まぁ残っているだけマシだが。


「気付いたのは大分後だけどな。理由は簡単、似てたからだ。かもし出す雰囲気も、容姿的な意味でも、ただそれだけだよ。他に理由なんかない」


 付け加えておくように、遼は思ったことをすぐ口に出すのと同時に、人の関係を察知しやすいそれでもある。


 そういう性質なのだ。仕方がないと言わざるを得ない。


「とりあえずな、もし梢がピンチにおちいった時、絶対にあんたが助けると思ってた。後付みたいに聞こえるかもしれないが、現にあんたは助ける姿勢を俺に見せてくれただろ」

「……。ああそうだな。お前の言うとおりだ。こいつは俺の一人娘、御堂みどうこずえ。れっきとした人間だ」


 わずかの間を空け口に出された言葉に対し、遼はオウム返しをした。


「れっきとした人間?」


 自分の言葉をくつがえしているようだが、謎力パステリアス保有者の梢が人間だというなら、俺も椿姫も人間ということに直接的に繋がる。


 怪訝けげんな遼の面持ちにふぅと一息吐く御堂。


「……勘違いだけはさせないように言うが実際のところまだ異なる。お前同様に俺が勝手に思っているだけでな。しかし、これはあくまで俺の胸中に沈む予想だが、謎力パステリアス証明の秘策があるのではとも考えている。つまりは謎力パステリアスというふざけた能力だけを消し、どこにでもいる極一般的な人間に戻す方法をな」

「そ、それはどう――」


 まぁ待て、と御堂が制す。


「あくまで俺の考えだと言っているだろうが。気持ちは解るがそうくな。しっかりとした方法がまとまり解答を得た時、遼、椿姫、お前達の元へ現れよう」

「それは……俺たちに手を貸すということか。どうして急に」

「……私たちだって本心ではやりたくないんですよ」


 動ける程度にまで回復した梢がゆっくりと起き上がり遼と顔を見合わせた。


「ちょ、大丈夫か? さっきは、悪かったな」

「……遼さん、優しいんですね。敵相手にそんな態度で接してくれるなんて」

「ああいや、つい」



 そう、正についうっかり。



 ここでも出るのが遼アビリティである。


 後ろからよたよたと歩み寄る椿姫は遼の斜め後ろを位置取り、手は開いていたままだった。


「今更何を言うかと思われるかもしれんが、俺たちだって好きで非道な態度を取っているのではない。……俺の妻、あいつの命を保ち続けるのにはこうするしかなかったんだ。未来パステレス革命ロードのトップ、女謎王クインテリアム。あのお方、いや、あいつの力で延命の機を得ている。裏切るわけにはいかんのだが、許せとは言わん。ただ信じてくれ、俺たちを」


 遺憾いかんを抱いたわけではないが、しかし心持たない椿姫を下にすることは出来ず、御堂は長らく放置されていた椿姫の伯父を肩に掛けると、梢と共に何事もなかったかのように去ろうとした。


「ま、待て!」


 その後ろ姿を見遣りつつ急いで呼び止める。



 かなければならない重要事項ががいくつもあったからだ。

二日連続更新。


そんな更新速度では俺の心は震えない……ところがどっこいハラショー! といった気分です。ユニークでしょう。

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