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金の力はパステリー  作者: 河合 翔
金の力はパステリー(1)
33/61

第三十一話 蘇りし記憶

「なんてこった……」


 一人ポツンとへたり込んで嗚咽おえつのようなものをらし、遼は空を見上げ棚引く雲を目で追った。


 東から西へ流れる純白の綿飴のような雲は亀が歩くよりも鈍く、そしてはかなく形を崩していく。



「遼……」



 突如として聞き覚えのある声が降りかかりオーバーながらも茂みの方を振り向いて、そいつを直視する。


 そいつは今までに見せたことのない表情を遼に向けて、きらめまなこから水晶のような淡い雫を地に落とした。



「……椿姫、お前」


 生い茂る木々から覚束無い足取りで向かってくる椿姫は、夢遊病患者みたくふらつき倒れそうになる前に遼は小走りで近づき、扱いを間違えれば今にも折れてしまいそうなその華奢きゃしゃな体を支えてやる。


 春の涼味を堪能するいとまもなく、マリオネットの紐が事切れたかのように遼にもたれ静かにすすり泣く椿姫。


 この場に居合わせ、先ほどの話を全て聞いていたとしても泣くまでには至らないだろうと勝手に解釈する。



 すると、だ。



 辿り着く結論は一つしかないようにも思えてならない。


 冴えきっている訳でもなくただ椿姫の心情を察し、今のが駄法螺だぼらとして示せればどれだけ良いだろうかという一縷いちるの望みに至るのは切に願ったとしても虚しい限りで、く気を抑えつつ一重に制した。



「もしかして……記憶を取り戻したのか?」


 その言葉に椿姫は体をビクンと揺らし、惰弱に侵食を許したが最後、遼には懸念を抱くことしかできないのもまた事実。


 遼から腕を解き椿姫は自分の力でおもむろに立ち上がると、焦点の合わない視線を宙に注ぎ、つられた遼は椿姫の涙腺を辿った後に目を背け、夕焼け煌びやかに映える町並みを捕らえた。


 堪能に浸れるくらい燦然さんぜんとした風景に後押しされるように、椿姫は弱々しくも口を開いた。


「全部、全部思い出したの……。あたしね。あの後言い過ぎたかなって気負いして遼の後を追っていったのよ。そしたら、ここで見知らぬ、いいえ。見知った伯父さんとの会話を聞いて酷い頭痛がしたとおもったら幼少期からの記憶がよみがってきて…………」



 そこで言葉が止んだ。



 苛まれる過去に気圧けおされ喉が詰まったに違いないだろう。


 またも目頭に雫を作り、涙を溜め泣かまいと必死になって堪える様子が伺える。


 そんな椿姫の状態に、遼はただす真似はせず、在来返らせん立ち居で接することにした。


 それが懸命けんめい、触れるだけで点火すると分かっている爆弾に身を投じるほどおかしくなっちゃいないつもりだし、ましてや見限ったりもしない。


 遼は長時間下ろしていた腰を浮かべると垣間見える絶景に一瞥いちべつし、小刻みに震える女の子の両肩にそっと手を置いた。




「悪かったな。もう喋るな。それと全部ひっくるめてな。悪いのは……お前じゃねえ」

やった連続で一週間更新したぞ! とリアルに歓喜喝采の声を上げています。

今月に入り無駄に十回以上の更新もさることながらおっともとい、自分でも納得のいく諦めぬ自制心。感慨に耽ること暫し堪能しちゃっていたりもするわけですはい。

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