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金の力はパステリー  作者: 河合 翔
金の力はパステリー(1)
32/61

第三十話 罪と罰

 椿姫を引き渡せ、か。



 願いとしては理に適ってるし、十分聞き届けることが可能といえる。


 だが、本当にそれでいいのか?


 自問自答をするように遼は自分に言い聞かせる。


 あいつとは短い付き合いだし、それでも腹を割ったような打ち解け合った仲にもなってる。


 あいつが来てからというもの、活性化に満ち溢れた日常に一変したのも事実。


 出会う以前、何をするでもなくただ凡庸ぼんように生きる毎日。


 つまらないマンネリを加えたような日々。


 遼は――そんなくだらない人生に打開のキッカケが欲しかったのかもしれない。


 そして、一縷いちるの望みを切に願いそいつを得たんだ。


 一生に一度手にすることが出来るのかどうかの代物をだ。



 良かったじゃないか、望みが叶って。



 正に最高峰。


 これ以上といってない感懐を抱けたのだから。




 ――それはちょっと前のことだろう。




 甘ったれるな。


 現実から目を背けてるんじゃねえ。


 このままだと本当にあいつは、椿姫の奴は連れて行かれちまう。


 もしかしたら一生会えなくなるかもしれない。


 走馬灯のように思い浮かぶ椿姫の笑顔。


 口も悪いし大した気遣いもなく自由奔放にに振舞い周囲にまで被害をもたらすあいつを、遼はどう感じていたのか。


 自分の身の安泰と椿姫を天秤にかけたところで、結論は出やしない。


 だが、解答は導き出されそこに至った。


 そう、


「――駄目だ。たとえ状況が最悪であっても、あいつを渡すような裏切る真似なんて、俺には絶対に出来ない!」


 肩を掴んだ男の手を振り払い、一蹴いっしゅうさせるが如くキッと睨み付けてやる。


 すると男は驚いたように目を見開き眉をひそめ、険悪にも気取ったポーカーフェイスを歪めた。


 遼は金子茂和の動向などお構いなしにと、先ほどとは打って変わって対峙する姿勢を負けじとみせる。


「黙って聞いてりゃつじつまの合わないところはいくつかあった。疑惑の一に、なぜあんたは椿姫が金を出す力を知っている」

「ハッ、何を言い出すかとおもえば。私の弟である椿姫の父親と母親から直接聞いたんだ。何を今更……」

「聞いただけなんだろ? ならなぜそんな頭のおかしい奴が言うような戯言を鵜呑みにする必要がある。あんたは力が真実だと確信に迫る事柄を範疇はんちゅうに留めていたんだろ」


 対面に立つ男は、痛いところを突かれたように黙り込み、最終的にチッと舌打ちをした。


 見事にドンピシャ図星かもしれないと遼は内心アンドし、言い分を止めず暗幕を降ろすにはまだ早い。


「あんた……椿姫の力が本当だと知って強要させてたんじゃねえのか……! 椿姫を引き渡せってのも、傲慢ごうまんに力を独り占めしたいだけだろ!」

「…………ふっ、くくくっ」


 男は不気味にも笑い両目をすがめると、


「ああその通りだよ。私は椿姫の力が金を呼び込むことも知っていたし、その力を欲しているのもまた事実。まさかこうも暴かれるとは予想だにしていなかったが」


 正しく開き直り。


 自身に絡まれた鎖が無くなったと同様にケンカ腰、だが手を振るう所作は垣間見えず、代わりに金子茂和は脅しを含有する言葉を発した。


「こうなれば無理矢理にでも連れてかえるしかなさそうだな。あまり暴力的行為を思わせる真似はしたくなかったがこうなっては仕方が無い。怨むなら自分の境遇とその程度の運を怨むがいい。私を怨むなんてお門違いな真似はやめてな」

「たとえそうであったとしても関係ない。俺はあいつを守り通すし、普通の連鎖だって断ち切ってやる」

「やれるものなら、そうすればいいだろう」


 男は言い放ちきびすを返すと、歳相応にけたたましく笑い声を上げ、遼の目の前から姿を消した。と同時に遼の体からは今まで辛うじてキープしていたであろう疲労がドッと湯水のように沸き、石畳に崩れ落ちた。


 どのくらい時間が経ったかなんて分からない。


 ほんの一瞬の出来事だったかもしれないし、それにしては現実味からやけに遠ざかっていて感性が狂っている可能性だって否定出来ない。




 だが遼は身を投じてしまったのだ。



 逃れることの適わない罪と罰に――

意外な労力をかける打ち込み作業に乾杯。

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