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金の力はパステリー  作者: 河合 翔
金の力はパステリー(1)
3/61

第一話 金欠

「世の中金だ」



 これ名言といわんばかりに無い胸を張って(男だしな)、皮肉染みた口調で言ってみせる。

 

 因みに今は哀愁(異臭)漂うボロアパートに一人で住んでいる状態だ。


「金だよ金。金さえあれば、なんだって買える。購入出来ちまう。文庫本も、菓子も、ゲームも全て買い放題! ん、少し当て嵌める対象が悪かったか」


 ちょっとしたノリツッコミを入れ、腰に手を当て伸びをする出雲いずもはるかは、海老反り、勢い余って、背を後ろに倒れてしまった。

 しかし倒れたのは、大雑把にも敷き詰められた布団の上で、次に左手を自分の腹元に置き、円を描くように擦った。


「……腹減ったなぁ」


 そう漏らすように呟くと、むくりおもむろながらに起き上がった遼は、教科書が散乱している机の上にあった大きめの黒い財布を手に取り、ゆっくりとガマの口を開いた。



 ごくり。



 シンと静まり返った部屋に固唾かたずを呑んだ気配がたった後、はぁ、とごくごくシンプルな意味の含まれた嘆息が、重々しく吐かれた。


「……二百十五円しか……ない……」


 眉をヘに吊り上げ頬を引き、口もヘの字に変わったと確認するいとまもなく、無造作に積まれたエッフェル塔に負けず劣らずの文庫本の天辺に控える通帳に手を掛けると、汗水浮かんだ手を震わせながら、残金額に目を移した。


 四千五百円。

 

 とそこには記されており、低いのかまだゆとりがあるのかよく分からない金額から目を背け、パタリと通帳を閉じた。


 現時点での全財産が、四千六百十五円、か。


 遼は意味もなくクルクル回り、後方にあった椅子に腰を下ろすと、またも溜息をほこりの積もった床元へ一息。


「これからどうすりゃいいんだよ……ったく」


 ぼやいてみせるもそれはただの独り言にしかならず、椅子に全体重を預けるようにもたれると、今度はその椅子を使い、器用にも周囲にある障害を避けるようにして回りだした。


 なぜこんなことになってしまったのかというと、金欠の原因は、最近になり日に日に減っていく仕送りがついに途絶えてしまったという点に辿り着く。

 絶望感を抱いていたのは過去のことで、今はとうにそれを通り越し、死活問題にまで至っている。


 高二である遼は、現在オンボロ荘二〇三号室の住人として、中盤に差し掛かった春休みを有意義に過ごせるゆとりもなく、ましてや元気の欠片もない。


 一人暮らしを始めて一年。


 様々な節約術プラス生活スキルを身に付けていくこともさながら、この不況、もとい、この大不況! ついに仕送りが途絶えてしまったんだよ! いや、これはさっきも言ったな。

 仕送りが途絶えてしまった件に対して当然のことながら、親父お袋に抗議の電話を寄こしてやると『バイトしろ』の一言で切られてしまった。


 バイト……だと……? 


 いや、それにしたって、二、三ヶ月前にあらかじめ伝えておくとか、そういった対処をとることは出来るだろうに。

 ……バイトのことは前々から言われてたから、何も言い返すことは出来ないけどさ。いやしかし、でもな、



「ふざけるなよ!」



 ガタンと椅子を揺らし立ち上がった遼の虚しくも悲しいラプソディーを奏でる咆哮ほうこうは、室内に響きこだまとして反響することなく、相も変わらず音をたてないでいた。


「おえっ、気持ち悪っ」


 一テンポ遅れでの反応。回りすぎたせいか二の句が最悪で、パラメータ的にはマイナスゲージをきっていそうな遼の活力は既に無いに等しい状態を保ち続け、挙句の果てに次のような一言を発しさせた。



「外に出よう」

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