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金の力はパステリー  作者: 河合 翔
金の力はパステリー(1)
28/61

第二十六話 事の発端

「お前にはきっとあれだ、糖分が足りないんだ。カルシウムなんて目じゃねえ。ほら、ちょうど向こうにデザートバーがあるから盛ってこいよ」


 言い終える手前、歯と歯の間に挟まった肉片が取れた時のように顔をほころばせ「どうしてそんな大事なこと先に言わないのよ!」と椿姫は遠慮という言葉を記憶から抹消したのか、出来る限り全ての肉を手早く取り口に頬張ると、爽快なスキップ、足取り軽やかに遼の前から姿を消した。


 デザートで釣られるとはまだまだあまちゃんだな、と肉の消失した網を憂いの表情で一瞥いちべつし、はたまた大皿から肉を移す作業を決行した。


 胡乱うろんな目付きでこちらに視線を寄越していた客たちもいつしかわいわい盛り上がってるし、こっちはこっちでちょうど遼の前を通りかかった店員にカルビ一式を頼み、んーっと思いっきり伸びをする。

 これ程美味い飯にありつけたのはいつ以来だろうと思考を巡らせながら。だが、すぐに中断した。

 

 誰も見ていなさそうな位置にセッティングされたテレビから流れるは、なんでも近くの銀行の金庫にしまわれた一億近くがごっそり忽然こつぜんと無くなっていたとかなんとか。


 その時の監視カメラの映像も出された。


 並平凡な人間が見たら思わず釘付けになる夢のような大金が映し出され、嘘かまことか、本当に一瞬にして金が無くなるというものだった。


 素人動画編集者だってもっと上手くやるだろうと指摘したくもなったが、どこか妙に引っかかる違和感を心中に留め、映像は終わった。


 それと同時に、けーきぃけーきぃ♪ とベートーベンが現世うつしよに残っていたら無言でかしらを左右に振りたくなるようなハミングとともに椿姫が席に着いたところで、遼は再びこの喧騒に包まれた空間に戻された。




                            $ $ $




 事が起こったのは次の日だった。



 隣々人である鳥羽の奴にもまぁいちおう祝儀金一万を献上してやると、感涙咽び泣くが如く巨体を揺らし、望んでもないのに表紙の時点で規制の掛かるであろう大人向け雑誌、通称エロ本を五冊程手渡してきやがり、現在自室の片隅ですることもないので仕方なく、本当に仕方なく一ページ一ページ捲り流し目で視線を交互に送っていた。


 いるだけで騒がしいことに定評のある椿姫の奴はお菓子ため買いしてくると言い出し外出、今現在部屋には俺しかいない。


 いたら読めるわけもないのでちょうどいい機会ともいえる。


 いちおう遼も健全な男子高校生の立ち位置にいるため、興味がないといえば嘘になるし、というかエロ本が燃えてちりと化してしまったのだから、それが十分不足していたといっても過言ではない。


「鳥羽の野郎、なんてもの渡してくれやがったんだ。またも隠し場所で頭を悩ませる羽目になるじゃね……うおっ、ちょ、ちょっとこの子は歳のわりに胸が大きすぎて……うわっ、こっちは逆に小さすぎんぞ。ったく中間くらいの子はいないのか?」


 一人だからこそ溜めることなく吐き捨てれる独り言、ちゃっかり三冊目に突入を遂げた遼の思考には観賞を止めるという選択肢は何処へと消え去り、注意は本にのみ向いているため、当然背後に誰かが不気味なオーラを漂わせ俄然構えていたとしても気付くことはないだろう。

 現に気付かない。


「三冊目にもなると過激だなぁ。ワンランク上がったみたく女の子のレベルもパワーアップして……キタッ! 理想的女の子ビバ裸体! あぁ、この発育途中ってのを著しく表したような膨らみかけだが、なおかつしっかりとした線を描いた二つの形。先の方も淡いピンクに立った感じのがこれまた評価が高く……おろ?」


 成人向け雑誌を寝転びながら見る体勢をとろうとして気付いた点が一つ遼にはあった。


 なぜ何かが覆い被さったように暗幕に包まれた背景が垣間見えるのだろう。


 さっきまで日光が燦燦さんさんと室内に溶け込んでいたのに、これじゃあまるで背後に誰かいるみたいじゃないか。


 と雑誌を小脇に抱えたまま振り返る。



 その先に待つ身の毛もよだつ存在にどんな結果が訪れるのかも知らずに。

 今までのをすこーしだけ推敲してみたら、うおっ文字数少なっと根本的なところに気付いた自分。

 今回から文字数を増やし、ついでエンターやらを活用して読みやすくなるかな? と検討をした結果このようになりました。

 今までの(現在金パスのみ)話にも編集を加えそれなりに時間をかけちょいと変えてみましたので、目を通して頂けると歓喜喝采の声を上げます。多分。

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