第二十四話 持て余されし時間
「うわ、これまた大胆にやったわねぇ……」
あきれて物言えぬ感情ではないが、目口はだかるとは正にこのこと。
「だろう。諭吉様をふんだんに使用した一千万風呂だ。実際にやってる奴なんざ全国堂々巡りしたって指折り数えれる程度だと俺は推測する」
本当に凄い光景なのだ。異様且つ仰々しく、成金の嗜みを表現出来そうだ。しかもこれで終わりと思ったらところがどっこい大間違い。
「とうっ」と万年浪人生の冴えない眼鏡君が天から与えられた不思議な力で変身するべく跳ぶ時に発した掛け声みたく、一瞬宙を舞い、また一瞬にして溢れた金の海にダイブした。
「わっ、うわぁ」
感嘆か絶句か判断に困る声を漏らし、椿姫は遼の飛び込んだ浴槽に目を注ぎ、ショックウェーブを想像させる金の荒波に釘付け状態。当の本人である遼はといえば、
「これは思った以上に癖になるな……椿姫もやってみるか?」
「いや、流石に遠慮しておくわ。でも、へー、ふーん。こういう楽しみ方があるんだ」
意味深に頷き、一万円札を生まれて初めて貰った小学生のような面持ちで(むしろ現在進行形で今)、椿姫は踵を返した。
「ねえ、今度はもっと有意義なお金の使い方をしましょうよっ」
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有り余る大金を手にすると人は変わるやらなんやら受け継がれてきた常套句だが、正しくその通りとしかいいようがないのだ。
自称ホームレスから五段階くらいランクアップを果たした椿姫は、今じゃ金が物をいう感性に身を浸しすぎて手遅れだし、遼に関しても金は天下の回り持ちと好き勝手にやっているわけで。
単純明快語るに笑止、自室の片鱗を垣間見た遼がとった行動は数知れず、新たに家を購入したり住居先を変更したりとしないあたりまだ良心に心当たりがないといえなく、結果的に大家さんに無許可で内装業者を呼び、炎上し鎮火した焼け焦げ場からものの見事に分離した玄関元のドアを半日かけ修理してもらった。
無論金はある所に隠し(ベタに押入れの中)、当然の如く裏ボス大家さんをそれなりの金で買収し(今までの家賃)、隣人に人が住んでいなくてよかったと改めて実感した。危うくいらぬ金を使う破目になるところだったからな。
椿姫はといえば、可愛い服を買いに行きたいと言い出し身嗜みを気にするまでに先進を目視している真っ最中。服からスカート、ぶ、ブラからパンツまでを一式どころか五式ほど思う存分に揃え、自己意欲の邁進に精を注ぎきっていた、流石は女の子か。
どちらかといえば手遅れコース直進だったな。既に叶えちまってる。
当然遼も有意義に過ごせるはずの春休みに出しやがった課題なんぞに手を付ける暇もなしに、相も変わらず諭吉タワーを建築して幾星霜の時間をドブに抛り捨てていた。
翻訳、札束の積み立て。金を重ねて、いや附いていたとでもいうべきか。本当の暇人は正しく遼自身を指す言葉かもしれない。