第二十話 人間金発見器
電気代が停められているのだから電話等という高等伝達手段は断ち切られたと同義で、アパートの目先取り残されたようになぜか佇む公衆電話から繋ぐは、幼馴染椎名梨璃雪を呼びつけた後、アパート前に身を寄せて、ついでに椿姫と供に待っていた。
そして待つこと一分。小走りで近づく影一つ、梨璃雪が高速短時間でやって来た。
そもそもそのはず、ここオンボロ荘から百メートル真っ直ぐ正面に位置するは出雲寮がそびえ(遼の名前ではないぞ)、当然その横には出雲高校がえらく立派な日時計をはって地を踏んでいるのだから。
本当は遼もこんな欠陥アパートよか設備の整った寮に陣を構えたかったが、くそ、あんな過去がなければ。
今思えば限りなく忌々しい。後悔の念が渦巻き身を纏うが如く包容するようだ。
「遼ちゃ~ん。昨日ぶりだねー、あわわ、わひゃあっ!」
あたかも手をぶんぶん振り下方に目も暮れず、段差に足を引っ掛け盛大にこける梨璃雪。大丈夫かあいつ?
公衆電話に背をもたれていた椿姫は「……ぷっ」と顔を憎たらしく変えていき、
「遼ちゃんって……! はっ、わははははっ」
対象を向け違えていたようだ。喧しく笑う椿姫に制裁チョップを咬ましてやり(ざまぁみろ)、倒れ突っ張った梨璃雪の元へ駆けつけてやり、手を差し出した。
「ったく、ガキじゃあるまいし、ちゃんと目を配っておけよな」
「いたたぁ、お気遣いありがとねー」
膝、スカート等を払い、ついで頭部を押さえて椿姫が追いつく。
「暴力反対なんだけど、遼ちゃん?」
こ、こいつ。
遼のこめかみがピクリと反応する。
「それでさ、私に何のようだったの~?」
語尾を伸ばし穏やかな口調で問い掛ける梨璃雪に「ああそうだった」と一言交え、
「ちょっとこいつを見てくれ」
梨璃雪の前に一つの束を差し出す。――そう、これは金。見たまんまだ。それ以外の何物でもない。
そのなんでもない金の束を目の前にして平常心度MAXの梨璃雪はおーと感嘆を漏らし、
「どしたのこれ?」
これを示すに当たり普通の反応にがっかりするがやはり視界に捕らえた通り、
「金」
「うわぁすごいねー。んー?」
何も言わずとして手に取りひょいっと覗き込み、何チェック? まぁ遼から言わせてもらえば本物か確かめる術はお前ぐらいしかいないんだから頼むぜ。
遼思考:うおー! なにこれ本物? ひゃっほーい、店へちょっこー、これくださーい! え? ……偽金?
といった苛まれる流れで両手にお縄を頂戴したくはないものだからこうして――
「……だよぉ」
「……? っとスマン。八割方脳内を活性化させていたせいで気が付かなかった」
意味不明な弁明をはらい見下ろし訊き返す。
「で、あんだって?」
「うーんとね。このお金だけど正真正銘の本物だよー」
カッキーンパァーン!
頭上で逆転満塁に連動して何かが弾けとんだ気がした。あくまで気がした、な。