第十九話 神の思し召し
「偽札じゃあ、ないよな……? つかなんでこんなにも大金が俺の家(借家的立ち位置)にあるんだよ。昨日はなんもなかっただろ。椿姫、お前が何か仕掛けたのか?俺を驚かすためのドッキリか何かじゃねえだろうな」
依然呆気にとられている椿姫に訊くのは愚問と解っていながら、尋ねずにはいられなかった。
確かに大金が欲しいと祈り願ったさ。大不況に立ち向かっていけるくらいの勇気とか力とか、そんなもの持ち合わせている程有り余った精神もなしに、成す術のない袋小路に一筋の打開線亀裂が走ったような感覚だ。
「し、知るわけないじゃないこんなの! むしろあたしが教えて欲しいくらいよ」
いかんせんきりのないループという洗練を置いた会話はよしとして、遼はある一つの考えを浮上させた。
足が地に着かない状態のまま。
「もしかしたら……」
遼は椿姫と向き直り、気が急くことも忘れて根拠の欠片もありゃしない思ったままのことを告げた。
「今の状況はもしかしたら何処から見下ろしてる神様が創造してくれた最高の一時かもしれないぞ。ようは神の思し召し、きっと俺達が切に願い生きようとする御心がユニゾンしてさ」
あまりにも非現実的な発想は本来なら中二病扱い、精神科に搬送されたってそれが正常な判断だと迷いなく断定出来るが、やはり今回ばかりは異なった。
「! そ、そんなことが有り得るのかしら。でも、他にいいようがないしね……」
戯言染みた遼の言葉を鵜呑みに「うん、そうかも」とあっさり信じ込んだ挙句の果て、破竹の勢いで活性化の兆しを曖昧ながらに、椿姫は言論自体を拵えた。
今更ながらに、遼だって自身の発言したことを覆そうとまでは至らないが、やはり心のどこかで突如水面から沸いて出た間欠泉の水圧くらい程の圧迫感を抱いてはいたのだ。
しかし現状においては八対二の割合で摩訶不思議案の方に傾き流され、
「よし、それじゃ件の金の在り方は神様が俺達に提供した思し召しってことで手を打とう」
遼は率先的に前向き、なぜならそこに金があるから、札束の山に身を委ねた。つまりは溢れ返った札の海に飛び込んだのだ。
「……何してんの?」
気を揉みつつ、貨幣に沈んだ遼を見初めるというパターンは捕らず、窓から許可なく進入する冷気にブロンドの髪を靡かせ長尻する椿姫は足元のゆきちーズを退かすことなく、さらには大雑把にもその場にしゃがみ込んだ。
顔だけ椿姫へと移し、鬼の首を取った童話桃太郎気分を心情に抱いた遼は、開き直ったみたくにやりドヤ顔。
「一生を掛けても手に入らない大金を目の前にして金銭的感覚が働いた結果がこれだ。二度とない機会、大事に活かしたいだろ?」
誰に問うは空回り、悪銭身に付かずという言葉があるらしいがそいつは嘘っ八だ。
金に飢えきって生命力に定評のある遼が十七年目にして最大のチャンスを掴んだのだから、ホント何が起きるのか解からないのが人生だと改めて実感した。
悪徳商法にもろ引っ掛かった背景を垣間見た椿姫を尻目に、遼はよっとリズミカルにスタンドアップ。まるで天王山の頂上に身を置く魔王のようなバックを栄え、
「まずはこの大金が本っっ当に本物なのか、ここでは常に否定形。邪まではあるもののこいつについて知る由があるな」