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金の力はパステリー  作者: 河合 翔
金の力はパステリー(1)
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第十六話 チェリーボーイ童命

「あ……あ、燃える、燃えてる、るっ!? か、火事だぁぁぁぁぁぁあ!?」

「い、いやぁぁぁあああ!」


 一人暮らし一年掛けて蓄積したエロ本トータル数三十冊以上が焦げた臭いを漂わし、真っ赤に灰と化していく。


 見るも無残な光景に目を見張るゆとりもなく、冷静になることは到底無理とてんぱらずにはいられない。


 端の方へ退避した椿姫は近くにあったバスタオルを引っ掴み体の部位を覆い目をつぶっていた。うおい!


「あつっ、あちっ、くそ、どうすりゃいい!? 電話も掛けられないし人を呼んでる余裕もない……そうだ、水だ! 水を浴びせりゃ消えるはずだ!」


 当然の判断を当然のように下し合致させて決行するは、風呂場にあったシャワーヘッドを引っ掴み、ノズルを回す、がっ。ちょろちょろと僅かながらに水滴が滴り落ちた後、完全沈黙を遂げた。


「こんな時にふざけんなやぁぁぁ!」


 とりあえず脇目も振らず叫び散らすしか脳がなくなってる。


「おい椿姫! なんで水が出ねぇんだ?」

「し、知らないわよ。あたしん時だって最初に水しか出ない挙句急に止まって、憤慨ふんがいしながら出たらあんたがいるしさ!」

「ん~、んんん~、くそっ! 見渡せっ周りを! 何か、何かこの状況を打開してくれる何かがあるはず…………っと、こ、これだ!」


 ええいままよと構ってるいとまもなく洗濯籠に入っていたボロ布を鷲掴みにして、無我夢中に火元にぶつける。


 必死になって火の粉を振り払う!


「うおおおおおおっ!」



 消えてくれええええええっっ!!



 ――十秒ほど生命維持に関わる初めての消火活動に当たったところ見事に鎮火ちんかを遂げ、焦げ臭い異臭と黒煙の渦だけが室内全体にたち込めていた。


「うっ、ごほっごほっ」


 取り巻く空気に耐え兼ねた遼はすぐさま窓を全開にし換気を行う。すると、夜風が音をたて室内の黒煙をさらっていき、幾分正常に戻りつつあった。


 火災報知機でも設置してあればよかったのだが、ここは悪い意味で名が一人歩きするほどのボロアパート。


 たてつけも悪ければ設備にも欠けてるしってんな愚痴を吐いてる場合じゃあないな。


「……ふう、間一髪。もう大丈夫だぜ椿姫」


 とくるり半回転をして向き合うと、


「あ……」


 あ? なんだ、ありがとうとでも言いたいのか? そんな赤子同然の格好で、ははまいったなぁ。


 遼が自信に満ち溢れた面持ちでゆっくり歩み寄ると、返ってきたのは想定外の一言だったのは、流れから察するに解りきったこと。


「あたしの服、どうしてくれるのよお!」



 服……服、これか? ちりちりに焦げ付いた服アーンドスカート、パンツ、ブラジャーの三点セット。


 全くもって跡形もない。そして飛んで来たのはグーパンチ。


 しかし舐めてもらっては困る。学習能力を身に付けた遼は飛んできた拳を押さえ、どうだ! おろ?


 カウンターの要領か、黒ずんだ床の滑りと同調したように、結果的な形として椿姫を押し倒すポージングをとる羽目になってしまった。位置的に開いた窓から指す月光が遼と椿姫を包んで。このタイミングで第三者なる人物が沸いて出るのは仕様だよな?



「どうした遼、ついに火事ったのか! ざまぁないっつか、鍵空いてるな」



 第三者云々、隣の隣に住む隣隣人。


 ニ○一号室に身を置く同級生の鳥羽とば兎貴みつきがづかづかと駆け込んで登場。


 遠慮という言葉を知らないのか、遠目ちょうどベターな月光に照らし出された遼と椿姫を視界に捕らえた。直後、


「うああ! チェリーボーイ童命どうめいの杯を交わしたお前が、なぜそれ程可愛い娘と裸で、裸で……っ! んぅのおおおおおおおっ!」


 勝手に上り込んだ挙句いらぬ勘違いをして去って行った。きっとああいうタイプをたちの悪い野次馬というに違いない。


 と確信作業を脳内に呼びかけたところで、


「いつまで乗り掛かってんのよっ!」

「うっぐ!」


 

 ……………………椿姫ちゃんよ。息子を思いっきり蹴り上げるのは反則だろうに。

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