第十四話 悪しき閃き
リビングといっても、自室とか物置と繋がってるもんだから、呼称としてはどうだろうと非常にくだらない疑問で頭をいっぱいに悩ましたのは数ヶ月前の話。
今は中央に控えた国会にあるのとは比べるも無残な円卓に、椿姫と互いに顔を見合わせ、ゆらり揺れているロウソクの灯火が決められた範囲で明るく照らし出していた。
それ以外の箇所は暗澹が襲い狂ったように真っ暗。電気が点いてないのだから当然だ。もとより電気止められてるし、語尾にかっこ泣きって入れたいくらいだぜ(泣)。
「……暗いんだけど。真っ暗なんだけど」
同じ意味の語句を反芻して、思ったばかりの当たり前の事を言い捨てた。
「そうだな」
遼は頷く。
「喉が渇いただろう。ほら水やるよ」
傍らに置いてあるコップに半分程注いであった水道水(飲みかけじゃないぞ)を、机の上からスライドさせ、椿姫の元へ差し出してやる。
「……水道水じゃなくて、ジュースとかがよかったんだけど」
そうぼやきつつもコップを手に取り、豪快に飲み干した椿姫は「シャワールームはどこかしら」とのっそり立ち上がった。
きっと今すぐにでも浴びたいのだろう。
その為にここに来てるしな。
「あっちだ」
遼はトイレの脇を指差し、椿姫が指し位置を追った。
洗面所の前に立った椿姫はくるっと振り返り、大口を叩くやはり大きな口を開いた。
「いい? 覗いちゃだめだからね。絶対よ!」
「覗かねえよ。俺はそれ程欲求不満じゃないしある程度紳士なんだ。それに覗くならもっと胸がある奴の方がいい」
椿姫はこの変態と言わんばかりに鼻を鳴らし突く視線を前に向け、引き戸を勢いよく閉めた。
なんだあの態度は。
自分の立場を弁えていないのではないのだろうか。
全くと、遼は蝋燭の光内に映る床にほかってあったテレビのリモコンを掴み、ボタンを押す。押すっ。
そして既視感、デジャヴを抱きつつ、「ああそうか。電気代止められてんだから付くわけがないに決まってる」と勝手に納得自己解決し、ポイッと背後に投げ捨てた。
そしてやることがなく暇になった遼は走馬灯のように思い出す。
目を瞑れば蘇る過去の記憶。
片隅に放り出されたそれは、まだ遼が自宅に身を置き、家族団欒で円満な暮らしを迎えている光景。
そうフラッシュバック。
いやぁ懐かしいなぁ。ほーらみんな楽しく笑って……ないな。おかしい、なんでこう暗く湿ってるんだ。
…………あぁ、そん時は親父がキャバクラ通いしてたことがバレてお袋が親父にドロップキックをかましていたなぁ。
どうりで空気が重く濁っているわけだ。
「……ぷはぁ。あー嫌な事思い返しちまった」
家庭に嫌悪を覚えて天井を見上げ、ボーッと頭を働かせない。
「なんだろうな、この状況」
ぼやかずにはいられなかった。いられないといえばもう一つ。頭の中に靄が沸いて出て、それが次第に大きくなり開花。やましい閃き、それが乱麻。
「このシチュレーションは……!」