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金の力はパステリー  作者: 河合 翔
金の力はパステリー(1)
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第十一話 垣間見せる笑顔

 振り返ると哀願を浮かべてじっと見つめる椿姫がいじらしく体をもじもじとさせ、しかし暗い密閉された空間のせいか、目がなれない。


 小屋の隙間から差す月光が、この腐りきった四角い箱を見栄えよく照らし出したように感じられる。


 ちょっとした間が空き、椿姫は二の句を告げる。


「あ、あんたんちのお風呂を貸してほしいの。迷惑じゃなかったらでいいけど……」

「風呂、か」


 その単語に釣られ、もう一度椿姫に上下目配せをした。


 暗闇に溶け込んだのは過去のこと、目が慣れてきたお陰か霞み捕らえきれないことはなく、二百字以上の作文対象にも出来そうな程汚れおとろえて見えた。


 そんな女の子に掛けてやる言葉といったら、一つしかないだろ?


「別に貸してやってもいいぞ」

「え、ホントに?」

「嘘ついたってなんも得しないだろうに」

「ありがとう! あ~、お風呂なんてどれくらいぶりかしらね……」


 つっけんどんで無愛想は何処やら、目元辺りにデコレーションでも付着したみたく燦然さんぜんと良い意味で遠目を向ける。



 よほど嬉しいのだろう、椿姫は引き戸を詰まらせることなく一瞬で開けると、


「さっ、あんたんちへ行くわよ! あたしを導きなさいっ」

「はぁ。解かったよ」


 現金な奴だ。


 前言撤回をすぐさま施した遼も同類に含まれそうでならないが、仕方ない。


 女の子の笑顔なんて梨璃雪以外に頂いたのは久しいしな。異性に対して抱く感情的存在は必須事項に値するだろうに。




                           $ $ $




 なぜ朝と夜は光と闇にきっちり分けられているのだろうか、その中間地点灰色の世界で統一してもよかっただろうにと、誰得脈絡なしの空想理論をひけらかすわけもなく、オンボロ荘から神社までが五分程度だったなと計り試みる方が実に有意義なことか。


 結論からいうと既にアパートの前まで到着しており、遼の隣には破れ乱れた服装に身を包む小柄な女、神社にて忘れられない衝撃の出会いをした椿姫(苗字不明)当人がおどおどとしたていを形作っていた。


「どうした椿姫。無駄にたどたどしいな。トイレか?」

「無駄でもないしトイレでもないわよ! あんたデリカシー精神に欠けるわね、全くもう。少しは察しむぐむぐ……」


 やはり無駄に口篭りクルミを両頬に詰め込んだリスみたく頬を膨らませた。スマナイ、何がしたいのか全くもって察せない。


 どうしようもなくその点はスルーし、ニ0三号室に住む遼と連れ添いの椿姫は、ぎしぎしと嫌な音をたてるさび付いた階段を登っていると、


「ゲッ」


 不快な言葉が思わず口から突いて出ていた。


 過去形である、つまりは防ぎようもない。

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