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金の力はパステリー  作者: 河合 翔
金の力はパステリー(1)
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第十話 自称ホームレスの少女

 春とは名ばかりで、やはり漆黒の闇を凌駕することは不可能なのか、続いては夜限定の寒冷後線が直球ど真ん中に突っ込んできたようにまとい立て、肌寒く感じるのは夜だからという理由に結論を小脇に寄せて持参することにした。


 遼は携帯も腕時計さえも所持していない(そもそも持ってない)のだから時間把握は芳しくないわけであり、予想的時間を見合わせるならば六時過ぎを目処に過ごすことにした。


 因みに今は神社の裏手にちっこくそびえるボロ小屋に少女Aと共に身を置いている状態だ。


 なんとも大儀なのは思考の片隅にでもしまっておこう。でないとやっていける自身が満たされることなど一生なさげだ。


 いやなに、いちおう自己紹介が済んでいるため、名を挙げさせてもらうと、この女の名前は、椿姫つばきというらしい。


 苗字はといえば解からない、だそうだ。


 本人がそう言ってるんだからそれ以上は愚問にしかならないし、別に知らなくたって困ることなどない。


 そして驚きのもう一言を告げたのだった。


「あたしはホームレスなのよ」


 引き合いを出すのは可愛そうだが、梨璃雪とはバスケットボールとビー玉くらいの見劣りがするない胸を反らした。


 えばるなえばるな。

 それと立派にない胸張ってくれるな。


 ――どうやらこの女椿姫は、カビ生えキノコの沸いた、人が三人いれば窮屈な小さいほこらで暮らしている爆弾発言を言ってのけた。


 正確には各地を転々と移動しているらしく、ここには一ヶ月も前から住んでいるという。


 まるで死神が隣人に席を置いたような暮らし、遼には到底想像することも適わずしたくもない。

 金欠と喚く今の暮らしでさえ、普通レベルに昇格しても降格はなく立場上理に叶っているのかもしれない。


 そうだもう一つあった。


 みしみしときしみ不快な音をたてる木造の空間は、否応なしに嗅覚を乱しあまりにも耐え切れるものじゃないし、お世辞という言葉すら出てこない。


「なんでかしらないけど一部記憶が抜け落ちてるらしいのよね。何年も前からだけど」


 平然と言ってのける分、既にそれ相応の点は慣れたものなんだろう。癒えない心の傷とは程遠く、軽い口調なのが論より証拠といったところか。


「あと追われていたりもするわね」


 そっちの方は現在進行形で初耳だ。


「追われてる? 誰に? どうして?」


 なぜ、だれ、なぜの三節で返してやる。


「ちょっ、そんな矢継ぎ早に投げ掛けないでよ。せめて一つにしなさいっ。……ま、前者の一つを答えるなら、施設の連中にね。ニ、三回撒いてるけどまだ安全とまではいかないわ。要注意必須事項よ。あんたも気を付けなさい!」


 ……さて、どこから突っ込もうか。追っ手が施設の奴だって? むしろ逃げるまでもないんじゃなかろうか。

 というか遼が逃げる必要性は皆無に等しいだろうに。


 関連性の欠片も見当たらないし検索該当数0。


「大体の流れは察した。後者の理由も記憶の抜け落ちで筋が通るだろう」

「そうよ!」


 だから自信満々に言うなと。


「つか、お前は慣れたもんだろうが、ここは息が詰まる。悪いが俺は帰らせてもらう。ああ、何かの縁ってことで握りっぱなしの半分先生はやるから」


 時間も時間だし早く家路に着きたいと、遼は自らに催促をしていきり立った。


 あまりこういうのには関わらないのが吉だとわきまえてはいるつもりだ。


 椿姫には悪いが己のことで精一杯の立ち位置に居るし。



 遼は重々しい腰をあげ、木片が段差と化した引き戸に手を掛けると、


「ま、待って!」



 椿姫が思いの他呼び止めてきた。

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