第八話 金の怒り
誰に問うでもなく、遼は自らの意志で欲張りなことに長方形に伸びた賽銭箱目掛けて一円玉を投入して、我武者羅に手を合わせて一礼。黙祷を捧げた。
その後の行動パターンは誰にでも予測のつくであろう範囲内、スライドするように寺の縁の下に潜り込み、砂塗れの地に手を伸ばした。罪悪感という鎖に苛まれつつも。
「これで取れ……!」
そう。
正にそう。
掛けた声と同時に、これまたものすごい速度で空気を切り裂く音が遼の耳に届いた手前、異変に気付く。
どこからともなく出現した黒い影に、一万円(諭吉ぃぃい!)を奪取されていたのだ!
狭いはずの縁の下でここまで俊敏且つ過敏な動きだと!? に、人間のレベルを超越してやがる。
ま、まさか……!
ふと頭を過ぎる一筋の思考。
この神社に纏わり束ねる神様だとでもいうのか!?
遼は黒い影に負けず劣らずの俊敏な動きで縁の下から脱出し、謎の黒い影がその場に佇んでいることに動向を探った。
子供という程小柄でもなく、逆も然りと大人のサイズではない中間地点手前、黒ずんではいるがブロンドの長髪なのが特徴的な……。
と蹲るそれはくるりと振り返り、
「おぉっぶ!」
思わず出た不可抗力の嗚咽。
まるでアメリカンフットボール選手のような瞬発力で身構えたタックルをもろに全身で受けてしまったのだ。
くっ、神の怒り~! とか、ゆうもか弱い声で呟いてるし……あれ?
遼は不信感たっぷり露骨にも顔に浮かべ、再度耳を研ぎ澄ませた。
「――金の怒り~!」
「……なんだ金かってうおお! 神と金を聞き間違える程俺は金に飢えているのか。金にも、飯にも!」
前方の謎の影Xはスルーの、思わず声に出し一人茶番劇をこなす遼は、これでもかと言わんばかりにリベートを続ける。
「こんな状況下に置かれて尚も大金ともいえる一万円を、俺は……俺は……っ! 見過ごせるはずない、やっぱり返せっ!」
土の付着した半パンには手を付けずおもむろに立ち上がりびしっと右手を突き出した。
相手がたとえ神様だろうが、遼は自身の意思を貫き通すと、信念を曲げない気度マックスだった。