四十三、蜘蛛と矢傷と伸びるティースプーン
バリズラ国王とその側近たちが、こちらへ不快感を与える動きを繰り返すなか、ひとり異なる動きをする男が懐から取り出したのは、然程大きくない革袋。
そして即座に革袋の口を開き、振り回して何かを投げ出す仕草をした、その瞬間、レオカディアの視界の端でバリズラ国王が口角を持ち上げるのが見えた。
そして、宙を飛ぶ黒い物体。
あれは、蜘蛛!?
長い数本の脚と独特な肢体を見た、と思った時には、レオカディアの前に座るエルミニオが、ティースプーンをそれ目掛けて大きく振っていた。
その姿は、まるでテニスのラケットを振るかのようで、とてつもなく決まっていると、レオカディアは目を輝かせる。
流石、エルミニオ様!
反応が早い!
格好いい!
でも、ティースプーンじゃ・・・・・!
投げるならともかく、ラケットのように振っても到底敵わない、届かない、と、レオカディアが後ろ手に弓を取り出したその瞬間、エルミニオが振ったティースプーンが、びよーんと伸びた。
え?
今、何が?
「なっ!なぜ、こちらに!」
ティースプーンが伸びた。
思いもしないその事実に感情が追い付かず、思わず、ぽかんと口を開けてしまったレオカディアは、自分の目の前で、エルミニオが長く伸びたティースプーンを器用に扱い、それを、見事蜘蛛の胴体の真っ芯に当てるのを見た。
そして、真っ黒な中にちらりと赤が見える毛足の長い蜘蛛は、そのままバリズラ国王へと真っすぐに飛んで行く。
「やめろ!早く捕かまえろ!」
「毒蜘蛛か。この話し合いの席に、何というものを」
「ちっ、違う!これは!・・・ああっ、こっち来るな!」
何とか飛んできた蜘蛛を避けたものの、床に落ち、蠢くそれを見つめて焦るバリズラ国王に、冷徹なエルミニオの声が被る。
「何が違うと言うんだ」
素早く動く蜘蛛から逃れようとバリズラ国王が暴れ、側近たちも足で懸命に蜘蛛を追い払う。
そして、冷ややかに言い放つエルミニオの手には、元の大きさに戻ったティースプーン。
「お父様!うまく行った!?レオカディア、殺してくれた!?」
そこへ、別室で待機していた筈のミゲラ王女が飛び込んで来て、その場にいたバリズラ側は、究極の混乱状態に陥った。
わあ。
今、入ってきちゃ駄目でしょ。
それも、私が死んだか、なんて叫んじゃって。
私の暗殺計画があった、って自白しているようなものじゃないの・・・・ん?
バリズラ側の人々を取り押さえる護衛の騎士たちのなか、ひとりの騎士が、先ほどバリズラの男が取り出したのと同じ革袋を持っているのを見て、レオカディアは眉を顰める。
「王妃陛下。あちらの騎士が・・・おさがりください」
「分かりました。気を付けて」
「はい」
緊張した声でレオカディアが言えば、同じく騎士の不審な動きを確認した王妃は、レオカディアにそう囁いてから、護衛騎士と共に何気ない動きで後方へと下がった。
それを確認してから、レオカディアは、なるべく騎士たちの視界に入らないよう、下方で弓に矢を番える。
あの騎士、確かに王城の。
幾度か姿を見かけたことのある騎士の行動に、レオカディアは自分の勘が外れてくれることを望むも、その騎士は、バリズラ側の人間を取り押さえる風を装いながら、手にした革袋の口を開き、中身をエルミニオへと投げつけた。
「っ!」
毛足の長い、見るからに毒蜘蛛と分かるそれが、エルミニオ目掛けて宙を飛ぶ。
そして、その事実にエルミニオが気づいた時、蜘蛛は既に矢に射抜かれ、飾り戸棚に突き刺さっていた。
ああっ!
しまった!
あの飾り戸棚って、国宝級の!
国一番とも言われる腕のいい職人が、時間をかけて作った伝統の逸品に、矢傷をつけてしまった。
その事実に、レオカディアは真っ青になった。
いいね、ブクマ、評価、ありがとうございます。




