四十二、茶番
「いい?ディア。僕が言ったこと、忘れないで。あの勘違い王女のこと、殴りたかったら、我慢しなくていいからね。僕としては、腹黒なレオカディアも大歓迎だし見てみたいけど、それはそれ、これはこれだから」
バリズラとの話し合い当日。
エルミニオは、バリズラに先んじて入室する際、いつも通りエスコートしたレオカディアに、そう念押しするように言って、ぱちんと片目を瞑って見せた。
「まあ、レオカディア。なあに?エルミニオは何ですって?」
今日の席順では、国王と王太子であるエルミニオ、そして宰相がバリズラと直接会話をするため少し前の席に、その後ろに王妃とレオカディアが並んで座ることになっているため、座るなり王妃が、好奇の目を隠すことなく向けて来た。
「あ、はい。殿下は、バリズラのミゲラ王女を殴っても良いと。自分が何とでもするから、とおっしゃってくださって」
『もちろん、そんな事はしません』と、レオカディアが言えば、王妃は楽し気にからからと笑う。
「いいじゃない。我慢なんてしないで。だってね。あの詮議の場でも、ミゲラ王女はレオカディアを凄い目で睨んでいて。お腹煮え過ぎて、目をくりぬいてしまいそうになったわ」
親子・・・・・!
お腹煮える、なんて怒りのことを遠まわしに言っておいて、思っていることがエルミニオ様と一緒。
「お、王妃陛下」
「だからね、大丈夫よ。もしレオカディアがミゲラ王女を殴っても、わたくしが無かったことにしてあげます。あちらが加害者なのだもの。こんな風に、きちんと話し合いの席を持つだけ有難いと思ってもらわないとだわ」
ほほほ、と笑う王妃は可愛くさえあるのに、言っていることはえげつなく、容赦もない。
やはり、エルミニオ様のお母様だと、レオカディアはしみじみ思った。
それはそうと。
この間と、家具の位置が少し変わっているのね。
私が座っているのは、弓矢が仕込まれているソファか。
話し合いの席に、武器の持ち込みは出来ない。
護衛は立っているが、すぐ傍というわけでもない。
だからというわけでもないだろうが、レオカディアに話しかけた王妃をはじめ、場の空気はなんとなくのんびりとしていると、レオカディアが思えたのは、バリズラ側の代表が入室して来るまでのことだった。
凄い。
空気が、いきなり張り詰めた。
それは、緊張というよりも、決して許さぬという、こちら側の気合のようにも感じてレオカディアは息を呑む。
エルミニオ様。
『我が国の威信にかけて。そして、レオカディアの名誉にかけて』
レオカディアは、気迫を感じるエルミニオの背中に、その言葉を思い出した。
「・・・こたびの件だが。我が娘ミゲラが、そちらの王太子を恋しく思うゆえのものであるからして。咎めなしでもよいと思うのだが」
え?
は?
何を言ってるの?
このひと。
バリズラの国王って言ったわよね?
そりゃ、ミゲラ王女殿下の罪を軽くとか、お金で解決、とかは言い出すと思っていたけど。
なかったことにしろって言っているの?
王家ごと絡んでいるのに?
「そこで、だ。この際、ミゲラをこちらに嫁がせるというのは、どうだろう。祖国を離れることは、ミゲラにとっても辛いことであるし、身分的にも、こちらの王太子妃となるに相応しいだろう」
レオカディアが、まったく予想もしなかったことを言い出した国王に驚いていると、その発言は、更なる未知の領域、否、理解できない域へと到達していく。
王太子妃、って。
エルミニオ様の正妃にすればいい、ってことよね。
どうしてそれが、罪になるのよ。
「これは、面白いことを。バリズラのミゲラ王女は、自らがこちらの王太子に相応しいと豪語しているというのに、それの何が罰となるのやら」
「いや、ですが。本人も反省をして」
「反省をしたからと言って、罪が消えるわけではない。我が国は、犯罪者を妃として迎え入れるつもりなど、毛頭ない」
「犯罪者とは失礼な!我が国の王女だぞ!?」
「毒の作り方を伝授して犯行に及ばせ、密入国し、狩猟大会で王太子とその婚約者を襲撃する。我が国では、それらを犯罪と呼び、犯した者を犯罪者と言うのでな。まあ、貴国では、違うらしいが」
エルミニオの声を、もっと渋くしたような声で話す国王は、凛として揺るぎが無い。
一方、バリズラの国王は、視線を忙しなく彷徨わせているうえ、落ち着きなく手を握り、足を動かしている。
しかも、その動きは国王のみにとどまらず、側近たちも、申し合わせたように同じような動きをしていた。
いくら何でも、落ち着きが無さすぎるのではない?
国の代表として来ているのに、わざとらしいっていうか・・・ん?
あれは、何をしているのかしら。
特に、ひとりの動きが酷く、見るに堪えないと視線をずらすと、その者から一番離れた所に居る者が、何やら懐付近を気にするのが目に入った。
もしかして、何かするつもり?
有り得ない要求をし続けるバリズラの国王と、そんな国王を止めることも、援護射撃することもない側近たち。
もしや、この場すべてが茶番なのではないかと警戒し、レオカディアは、いつでも弓を取り出せるよう体の位置をずらした。
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