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四十一、仕掛け部屋と行く道







「ディア。今度は、このソファの背もたれの上の部分。そう、そこの釦を強く押して上に持ち上げてみて」


「あっ、開いたわ!」


 王城のなかでも、貴賓を招く時に使うため、ひと際贅を極めたその部屋で、レオカディアは、ヘラルドとセレスティノ、そしてエルミニオから、部屋のからくりを教えてもらっていた。


「わあ。ここには、弓矢を隠してあるのね・・・凄いわ。あっちのソファの肘掛け部分には、短剣が入っていたし、あの壁には長剣が」


「ディアが教えてくれたことじゃないか。部屋のあちらこちらに、武器を隠す方法」




 ああ。


 あれは、そんなつもりじゃなかったんだけど。




 確かに未だ子供の頃、思い出した色々な邸のからくりを、無性に誰かに聞いてほしくて、エルミニオ達に話したのは、紛れもない事実。


 しかし、それらが実際に王城で採用されているなど、レオカディアは夢にも思っていなかった。


「この部屋は、色々な要人との話し合いの場にも使われるからな。帯剣出来ない場合でも、襲撃に備えることが出来るようになったと、父上や母上も喜んでいる」


 『外交なんて、腹の探り合いだからな』と黒い笑みで堂々と言ってから、自分の反応を見るエルミニオが可愛いと、レオカディアは思う。




 どんなにエルミニオ様が腹黒くったって、絶対に嫌いになったりしません。


 安心してください。




「分かります。国や民を護るには、一筋縄ではいかないということですよね」


 そして、レオカディアのことも、護ろうとしているエルミニオ。


 これだけの設備を整えた部屋で、数日後、バリズラの国王との会談が予定されている。


 レオカディアの毒殺未遂事件、そして薔薇祭での狩猟大会襲撃事件、いずれもバリズラ及びミゲラ王女の関与があった証拠を掴んでいるエルミニオ達だが『我が国の王女を勝手に裁くのは許さない』と主張するバリズラの意向を汲んで、一応の話し合いの場を持つことになった。


 とはいえ、ミゲラ王女及びバリズラの犯行は、既に(つまび)らかとなっており、証拠も揃っているので、エルミニオ達としては、要求をどれだけ通せるかが問題だとしている。


『我が国の威信にかけて。そして、レオカディアの名誉にかけて』


 そう誓ったエルミニオ様は格好よかった、というのは、レオカディアだけの秘密である。


「ディア。もし、話し合いの途中で、どうしても殴りたくなったら、あの王女を殴ってもいいからね?僕が何とでもしてあげる」


 『詮議の時も、ディアを睨んでいて、目玉をくりぬいてやろうかと思った』と、なかなかに過激な事を言うエルミニオに、レオカディアは淡く微笑んだ。


「大丈夫です、エルミニオ様。そんな風に、こちらの非を責めるための糸口を与えたりはしません。もっと狡猾に、動いてみせます。王家に嫁ぐ者として、私も腹黒く、ですわ」


 先ほど、エルミニオが『腹の探り合い』と言った言葉を受け、嫣然と笑って見せるレオカディアを、エルミニオはそれはもう、嬉しそうな笑顔で見つめた。


「嬉しいよ、ディア。なんというか、ディアはいつか何処かへ行くつもりなんじゃないかと、思っていた時期もあるんだ。でも、そうやって『王家に嫁ぐ』と言い切ってくれるなんて。本当に嬉しい。ありがとう、ディア」


「エルミニオ様」




 まさか、気づかれていたなんて。




『いつか、レオカディアは自分達から離れるつもりなのではないかと思っていた時期がある』


 エルミニオはそう言うが、レオカディアからしてみれば、離れるのはエルミニオ達である筈だった。


 この世界が、ゲーム「エトワールの称号」だと気づいて、いつか、エルミニオもセレスティノもヘラルドも、ヒロインを選んで遠くへ行ってしまうと覚悟していたレオカディアだが、その予想は大きく外れ、最早ゲームの片鱗も見えない。


「私は、ずっとエルミニオ様のお傍に居ます」


「ディア・・・必ず、幸せになろうね」


「はい。エルミニオ様」


「・・・・・ああー、ああー、なんか、あっついな」


「そうだな。急に気温が上がったな」


「あ」


 わざとらしい咳払いと、聞えよがしな会話を聞いて、レオカディアは、この部屋に居るもうふたりの存在を思い出した。


「まあ、幸せなのはいいことだから、いいけどな。ほら、これ見てくれよ。レオカディアが言った通り、飾り杖に長剣を仕込んでみたんだ。今、飾り杖を持って歩くのが流行っているから、そう目につくことも無い。そして何より、見てくれが格好いい」


「俺は、靴に極めて小さな刃を仕込んである。小さいが、投げればなかなかの威力を発揮するし、もちろん、縄を切るなどにも使える」


「あ、ほんとだ凄い!」


 殊に、靴の刃物は巧妙に隠してあって、今のように教えてもらっても、見ただけでは、靴に刃があるなど分からないと、感心しきりのレオカディアの髪を、エルミニオがそっと撫でる。


「対策は万全だから。安心していて。ディア」


「そうだぞ。バリズラの奴らが何を仕掛けて来ても、俺らが対処する」


 まるで、バリズラがここで何か事を起こすのは決定しているとでも言いたげなエルミニオとヘラルドの言い(よう)に、レオカディアは思わず顔を引き攣らせてしまうも、それが正解なのだろうと、これまでの経緯を思い返した。




 何事も無く済む、なんて呑気な事は考えない方がいいんでしょうね。




「因みに、この部屋の仕掛けを知っているのは、国王、王妃両陛下と、エルミニオ王太子殿下、そして俺らだけだから、大丈夫とは思うが、口外はするなよ?」


「了解しました」


 念のためというセレスティノに、ふざけるように騎士の礼をして、レオカディアは改めて室内を見渡す。


 


 ほんとに凄い。


 壁は防音で、戸棚に至るまで硝子は全部厚く、割れにくく加工されているというのに、この美しさ。




 貴賓を招くに相応しい姿をしているのに、防御にも厚い部屋。


 


 私も、そんな風になりたい。


 優しく、愛情深い面と、どんな相手とも凛とした態度で渡り合える度胸を持った存在。


 そんな妃になれたのなら、エルミニオを公私共に支えることが出来るのではないかと、レオカディアは、改めて自分の行く道を見つけたように思った。




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