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三十七、騎士と薔薇  ~エルミニオ視点~







「ディア、大丈夫かな。ちゃんと、眠れているだろうか」


 薔薇祭の狩猟祭当日に、森で襲撃を受けたエルミニオは、その日出来ることをすべて終えた自室のベッドで、そう呟いて天蓋を見上げる。


 前日の調査では、確かに問題無かった筈の森で、当日の警備もあったなか侵入を許したうえに襲撃を受け、レオカディアと離れさせられた。


 更には、バリズラのミゲラ王女とドゥラン妄想女の相手をさせられ、その間にレオカディアが更なる危険に見舞わるという、エルミニオにとっては到底許すことの出来ない、あってはならない事件が起きた。


「六対二で、相手に武器を向けられて、矢を射かけられて・・・いくらヘラルドが居たとはいえ、その前に一度、馬で怖い思いをしている縄まで投げられて。どれほど怖かったことか。くそ。やはり、破廉恥迷惑王女など捨て置くのだったな」


 しかしそうすれば、どのように足を掬いに来たかも分からないと、エルミニオは唇を噛む。


「毒に縄。僕のディアに、そんな物を使ったこと、死んだほうがましってくらい、後悔させないとだよね。だって、僕にディアとの約束を破らせたんだから」


 以前、妄想女ドゥランが仕込んだ毒も、王女と繋がっていることが判明している今、何も容赦する必要は無いとエルミニオは黒い笑みを浮かべた。


「それに、やっと参加できた狩猟大会だったのに」


 今年、漸く狩猟大会に参加できるようになって、エルミニオはとても高揚していた。


 その理由は、未だほんの子供の頃、レオカディアとエルミニオが婚約をした頃まで遡る。






 むかしむかしのお話です。


 この国の、優しく美しいお姫様が恐ろしい竜に連れ去られてしまい、国中のひとが嘆き悲しみました。


 お姫様のお父様である王様は、国中の勇敢な騎士にお姫様を助けるよう言いますが、なかなかうまくいきません。


『私が、行って来ましょう』


 そんな時、王様の傍で仕える騎士のなかでも、特に強くて立派な騎士が、そう言って竜の居る場所へ旅立っていきました。


『こんなに恐ろしい場所にいなくてはいけないのなら、いっそ神の国へ行ってしまいたい』


 竜の巣で、そう言って震えていたお姫様は、ある時、竜が巣の外で恐ろしい唸り声をあげているのを聞きます。


『何が、起こっているの?』


 そう呟いて、恐る恐る外を眺めたお姫様は、ひとりの騎士が、竜と果敢に戦っている姿を見て、一瞬で目を奪われてしまいました。


『なんて強い。なんて、素敵な方なのでしょう』


 そうして、苦闘の末に竜を倒した騎士は、お姫様を、無事助けることに成功したのでした。


『まあ、美しい花が』


 竜が倒れた、その場所には、竜の血の代わりのように、美しい花が咲き乱れており、騎士はそっとその一輪を、お姫様の髪に飾ったのでした。






 ・・・この国に伝わる、薔薇祭の起源。


 その話を、本が擦り切れるほどに好んで読んでいたエルミニオは、婚約者となったばかりのレオカディアこそが、自分のお姫様だと思い、薔薇祭のその意味をレオカディアに問うた。




 別に、知らなくたって、ぼくが教えてあげられるってことだよな。




 そう思って話を振ったエルミニオは、レオカディアこそが自分の運命だと確信することになる。


『ディア。ばらさいのいみ、しっている?』


『はい。騎士が、竜にさらわれたお姫さまをたすけたとき、流した竜の血が、ばらになったとききました』


 すらすらと、そう答えたレオカディアの、陽に輝く緑の瞳を見た時、エルミニオは自分の幸福に快哉を叫びたい気持ちになった。




 ディアは、本当にぼくのお姫様なんだ。


 絶対に、ぼくが守るからね、ディア。




『うん、そのとおり。ぼくは、ディアの騎士になるから。だから、いつか、しゅりょうたいかいに出られる年になったら、一番のえものとばらを受け取ってね』


『わあ!うれしいです!エルミニオ様、楽しみにしていますね!』


 そうして、その年からずっと、ふたりは、どんな年齢でも祭りとして参加できる、薔薇の鑑賞を共に楽しんで来た。


 狩猟大会に出場できない年齢の頃には、薔薇を共に眺めることしか出来なかったが、その間も、やがて来るその時のために、エルミニオは弓術の鍛錬も怠らなかった。


 それは、いつか狩猟大会で一番の獲物をレオカディアに捧げ、薔薇の花を受け取ってもらう。


 ただ、それだけのために。


「それを、あいつらが」


 自分の妃になるなどという馬鹿げた妄想で、自分の数年来の夢、そしてレオカディアとの大切な約束を木っ端微塵にした罪、そして何よりレオカディアを危険に陥れた罪は重いと、エルミニオは暗闇のなか、明日の裁きについて熟考を重ねた。



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