三十六、薔薇祭 ~捕縛~
「ディア!怪我は無いか!?」
レオカディアを強く引き寄せ、その温かな手で、顔や肩、腕にそっと触れて確認するエルミニオの姿に、レオカディアは気が抜けたように頽れかけ、エルミニオに支えられる。
「ディア。怖い思いをさせてすまない。もう大丈夫だ」
「ああ・・・エルミニオ様・・あ、ヘラルドが」
「ヘラルド!怪我は!?」
「ねえよ・・はあ、良かった」
手首に絡み付いている縄をセレスティノに外してもらいながら、ヘラルドがにかっと笑って見せた。
そんな四人の視線の先では、バリズラの原住民達が、騎士団に拘束されて行く。
「バリズラの原住民か。つまり、ディアを危険に陥らせたのは、あの王女ということで確定だな。これ以上ない証拠、証人を捕獲、と。さて、どう料理してやろうか」
「ああ・・そのだな、殿下。気持ちは分かるが、ものすっごく悪い顔になってるぜ?」
「レオカディアの前では、取り繕っていくつもりかと思っていたんだが。もういいのか?」
「あ」
ヘラルドとセレスティノの言葉に、エルミニオがしまったというようにレオカディアを見る。
「大丈夫よ。為政者がきれいごとで済ませられないなんて、当然のことだもの。それに」
「それに?」
「そういうエルミニオ様も、凛々しくて素敵だと思うから」
「ディア!」
『まあ、分かってもいたしね』と笑うレオカディアに、複雑な表情になりつつも、エルミニオは安堵したようにレオカディアの髪を撫でた。
「ああ・・・なんてえか。俺らの主って、私生活では、べったべたな相愛、溺愛ぶりだよな」
「今更だな。それに、険悪な状態より、ずっといいじゃないか」
そんなふたりを見守り、ヘラルドとセレスティノが馬の無事を確かめている所に、レオカディアも合流する。
「攻撃されても、大人しくしていてくれて、ありがとう。今日は、たくさん怖い思いをさせてごめんね。帰ったら、角砂糖とにんじんをあげるからね」
そう言って馬の首を優しく撫でるレオカディアに、セレスティノが思わず吹き出した。
「え?どうかした?」
「いや。さっき殿下も、同じことを言っていたから・・ああ、きちんと説明する」
何故、エルミニオが馬に角砂糖とにんじんをやると言ったのか。
その説明をするため、セレスティノは、バリズラの王女とピアが現れたことから話し出す。
「なるほどな。それで殿下はレオカディアを追って来なかったわけか。いつでも、どんな時でもレオカディアが最優先の殿下にしては、珍しいと思ったんだよ。ま、他国の王女殿下が相手じゃ、仕方ないな」
「何を言うヘラルド。ディアを最優先に考えた結果、王女をさっさと帰らせるのが最上だと判断したから、だ」
決して王女を優先したわけではない、とヘラルドに強く言いながら、エルミニオは心配そうにレオカディアを見た。
「大丈夫です、エルミニオ様。私、エルミニオ様を信じていますから」
「ディア!ああ、でも、ディアをこんな危険な目に遭わせると分かっていたら、あんな奴ら放置しておいたのに」
「やめてください。国際問題になります」
きりっと真顔で冷静に言うレオカディアの、その肩を軽く叩いたセレスティノが、揶揄うように口を挟む。
「レオカディア。殿下は<もし>や<万が一>の可能性で、バリズラの王女を自分の妃に捻じ込まれないよう、細心の注意を払っていた。自分の妃はレオカディア以外いないと。本当に、愛されているな」
「え。それって、バリズラの王女殿下は、エルミニオ様の正妃の座を狙っているということ?じゃあ、突然来た王女というのは、ミゲラ殿下ではないの?」
『そんな行動をとるのは、てっきりミゲラ王女殿下だと思った』と、不思議そうに言ったレオカディアに、エルミニオはうんざりしたように肩を竦めて見せた。
「いいや。ディアは間違っていないよ。こちらの迷惑顧みず、突撃して来たのは、あの災厄級に性質の悪い、ミゲラ王女だ」
「でも、ミゲラ王女殿下は、ヒレワサのアウレリアーノ王子殿下にご執心だって、テレサ様が困っていらしたけど?」
アウレリアーノ王子の婚約者、テレサと親交のあるレオカディアが『そんなに前のお話でもないのよ?』と首を捻る。
「そうなんだが。今は、僕の正妃の座を狙っているらしい。自分が正妃になったら、あのドゥランの迷惑女を側妃にすると宣っていたからな」
「わあ・・・随分、お話が進んでいるのね。というか、ドゥラン男爵令嬢とミゲラ王女殿下は、どこで知り合ったのかしら?」
『奴らが話した事実として、伝えておく。不快な話でごめんな』と、自分こそは不快そのものの表情で言ったエルミニオにレオカディアが言ったところで、ひとりの騎士が走り寄って来た。
「捕縛、及び証拠品の回収が終了しました」
「分かった。では、これより帰城する」
「はっ」
「さあ、ディア。帰ろう」
凛々しい顔で騎士に指示したエルミニオは、そう言って蕩けるような笑みを浮かべて、レオカディアへと手を差し伸べた。
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