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三十五、薔薇祭 ~遭遇~







「あっ、あった!ヘラルドの勘、大当たりよ!」


 それぞれ馬を引いて歩いて行くと、再び道沿いに暗号の描かれた木を見つけ、レオカディアは弾けるような笑顔を浮かべた。


「これが何を意味してるか分かりゃ、もっといいんだけどな」


 再び木の板を作り、暗号を描き移しながら、ヘラルドが考えるように言う。


「うーん。さっきの所にあったのが、ぐるぐるって渦と縦型の波で、今度のは横型の波だけ。で、さっきの所で縄を投げているから・・・あ、さっきの所の暗号は『ここで投げろ』で、今度のは『進め』とか?」


「ああ、なるほど。それだと、意味が通じるな」


 描き移し終えたヘラルドは、そう答えながら、暗号を記した木の板を、馬に括りつけた革袋へと仕舞った。


「こういう暗号、あと幾つあるのかな・・・あっ、あそこにも、横型の波だけの暗号がある」


「ああ。ここからは、同じ物は何枚あったかだけ記録しておこう」


「そうね・・・あ、もしかして。波や渦の数って、歩く歩数とか、距離なんてものも関係あるのかな」


 『戻って数えてみようかな』というレオカディアに、ヘラルドが首を横に振る。


「数えているから、戻らなくて大丈夫だ。だけど、どうだろうな。特に、波や渦の数と歩数は関係無かった。まあ、俺の歩幅だけどな」


「え。凄い、ヘラルド。最初から分かっていたんだ」


「俺は、護衛も兼ねている側近だからな。こういう訓練も受けてんだよ」


 いつものようにへらりと笑って、ヘラルドはレオカディアを促し歩き出した。


「じゃあ、暗号の意味を分かったりはしないの?そういう勉強は?」


「してるけど、これは知らない奴だ。資料にも無かった・・・つまり、これを使う奴ら、もしくは国は、敵になったことが無いってことだな。だが、殿下とレオカディアを狙ったってことは、国として侵略を目論んでいるか、国家転覆を狙っているか、はたまた王位に関係するかだと考えていいだろう」


「そっか・・・そんな人たちが、エルミニオ様を狙ったのね」


 これまで敵対したことのない国が、人が、エルミニオを害そうと狙ったかもしれない。


 そう思うだけで、レオカディアは頭が沸騰しそうになる怒りと、必ず捕らえるという冷静な気持ちが溢れ出す。


「まあ、国内の組織ってのは、かなり確率が低いけどな。殿下のことは、大臣たちも高位貴族も文句無しって言っているし」


 『大体、あの殿下に喧嘩売るとか、かなりの考え無しとしか思えない』と、ヘラルドは、再び同じ横型の波が描かれた木を確認しながら呟いた。


「そうよね。エルミニオ様、凄く有能だもの。そんなエルミニオ様より自分が相応しいと言うなんて、かなりの勇気よね」


「ああ。それもあるけど、俺が言いたいのは、命知らずってこと・・・っと、何でもない」


「ヘラルド?」


「ほ、ほら!殿下は、剣術も抜きんでているから」


 敵と見做した相手には容赦ない。


 そんな自分をレオカディアには見せたがらない、もうひとりの主を思い出し、ヘラルドは冷や汗をかく思いでそう誤魔化す。


「確かに。エルミニオ様、とっても強いものね・・・で、また横型の波だけ・・なみなみ~なんてね。そろそろ、違うのが出てきそうな予感。ね、ヘラルド。次に違うのが出たら、そこがアジトだったりして!」


「この森に建物はねえ、って言ったのレオカディアじゃん」


「うん。だから、建物じゃなくて、テント張っているとかして・・・そう!待機場所!」


「・・・・・レオカディア。それ、もう少し早く聞きたかった」


「・・・・・私も、心からそう思う」


 顔を引き攣らせて言うふたりの横の木には、渦だけが描かれた木があり、ふたりの視線の先には、野営用の簡易テントが見える。


「狩猟大会の日に、大胆だな」


「誰もいないから、出来ちゃう所業?」


「ともかく、ここを離れよう。気づかれないうちに、そっとな」


「分かったわ。騎士団に連絡ね。ああ、でも。役目を終えて引き上げるところだったら、逃げられちゃう・・・え」


 レオカディアが冗談のようにそう言った時、テントがめくれて数人の男が姿を現し、レオカディアとヘラルドの姿を認めると、何か異国の言葉で騒ぎ始めた。


「レオカディア。それも、もう少し早く聞きたかった」 


「ははははは。それよりあれ。何を言っているのか全然分からないけど、仲良くしましょう、って感じじゃないことだけは分かるわ」


「だな。それで、あの装備。あれは、バリズラの原住民が使う武器だ。レオカディア、俺から離れるなよ」


「私も戦う」


 初の実戦に震えながらも、レオカディアが、予備として持って来ていた弓を素早く取り出す間に、動きが遅いと言わぬばかりに先制の攻撃を仕掛けられる。


「させるか!」


 しかし、その飛んできた矢のすべては、既に抜剣していたヘラルドによって撃ち落とされた。


「レオカディア。この矢、恐らく毒が塗られている。触らないように、気を付けろ」


「ヘラルドもね」


 どうしても緊張で高鳴る鼓動を抑えるように大きく息を吸い、レオカディアは意識してその息を吐く。




 相手は六人。


 鎧も何も着けていないけど、動きが戦士そのもの。


 こちらを獲物と認識しているのか、じりじり迫って来る。




 獣の皮で作った衣服を身にまとっている彼らは、狩猟をしているかの足取りでゆっくりと前に、つまりレオカディアとヘラルドに向かって進んでいる。


 


 飛んで来る矢は、全部ヘラルドが切り落としてくれるけど、私が矢を射ることも出来ない。


 そんな動きをすれば、即座に襲い掛かって来る。




 自分の動きが契機(けいき)となってしまえば、ヘラルドの動きを邪魔してしまうと、レオカディアは、じんわりと汗の滲む手で弓を握り締めた。


「あっ、あの縄!」


 矢を幾ら打っても無駄だと判断したのか、相手が縄の先に重りを付けた物を振り回し始め、三人が時間差でその縄を投げる。


「くっ」


 二本の縄は避けたものの、一本の縄がヘラルドの剣を握る手に絡み付き、ヘラルドの動きを拘束した。


「ヘラルド!」


 その隙を逃さず走り寄る相手の足元にレオカディアが矢を打ち込み、再び足を止めさせることに成功するも、事態が好転したわけではない。


 


 どうしよう。 


 どうしたらいいの。


 私が連続で矢を射る速さよりも、攻撃される方が絶対に早い。


 でも、ヘラルドの剣技なら、今の状態でも三人相手くらいなら出来るはず。


 となると・・・。


 


 縄が絡んだままの手で、それでもレオカディアを庇いつつ剣を握るヘラルドの後ろで、矢を番え相手を威嚇しながら、レオカディアが何とかこの場を打開すべく考えを巡らせていた、その時。


「ディア!無事か!?」


 レオカディアにとって誰よりも心強い、エルミニオの声が辺りに響いた。



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