三、見つけたのは、佃煮
 
 
 
「わあ。めずらしいものが、たくさん。これなら、おしょうゆもあるかも」
両親がレオカディアを連れて来てくれたのは、父公爵の言う通り、あまり貴族は近づかないような雑多な雰囲気のある市だったが、珍しい物が揃っているという言葉にも嘘が無く、レオカディアは今世のみならず、前世でも見たことのないような品々に夢中になった。
「おねえしゃま!いいにおいがしまし!」
そんなレオカディアの手を握り、一緒にとことこ歩いているブラウリオも、楽しそうに目を輝かせて、あちらこちらを見上げている。
「ほら、ふたりとも、お父様とお母様からはぐれないようにするんだよ。もちろん、にい様からもね」
「「はあい!」」
しっかり者の兄、クストディオに言われ、レオカディアとブラウリオは、いい返事をしてしっかりと互いの手を握り直す。
そんな三人の子供を優しく見守りながら、アギルレ公爵夫妻も足取り軽く歩いて行く。
「ふふ。懐かしいですわね」
「そうだな。初めて、ふたりで訪れた場所だからな」
 
え?
初めてのデートがこの場所?
まあ、異国のものがたくさんあって素敵ではあるけれど、お父様は公爵子息で、お母様は侯爵令嬢だったというのに、随分と庶民的。
ふふ。
そういうところも、好き。
 
上位貴族でありながら、気取ったところの無い両親が好きだと思いつつ、レオカディアは品物を見て歩く。
「あれもおいしそう・・あっちは何かな・・・あっ、つくだに!」
そしてレオカディアは、佃煮を発見して益々目を輝かせた。
「すみません!」
佃煮があるということは、醤油がある。
レオカディアは、ときめきで胸をいっぱいにしながら、店主を見上げ話しかけた。
「あのっ。このおりょうりについて、おききしたいのですが」
「え?お嬢ちゃんがかい?」
戸惑う店主に気付き、アギルレ公爵がすかさず言葉を紡ぐ。
「すまない、店主。娘は、珍しい物に目が無くてな。レオカディア、この黒い食べ物が、お前のほしい<黒い液体調味料>なのか?それにしては、さらさらしていないようだが」
「おとうさま。これは、のりのつくだに、です。ほら、あっちにはおさかなのつくだにもあります。これをつくるのにつかうのが、おしょうゆ、くろいえきたいちょうみりょう、です」
「へえ、よく知っているねえ」
レオカディアが父公爵に説明すると、店主はそう言って破顔した。
父公爵に抱き上げてもらったレオカディアは、その優し気な笑みに力をもらい、正面から店主の瞳を見つめて話を始めた。
 
 
「すごいわ。おしょうゆだけでなく、いろいろ、見つけちゃった」
佃煮屋の店主と話をした結果、レオカディアはこの世界に醤油が存在することを知った。
のみならず、自国では消費されない生姜や料理酒、米をも見つけ、両親に強請って購入してもらうことに成功した。
「あとは、とりにく、だけど。このせかいのおにくって、ぱさぱさなんだよね」
でもそれは、砂糖と塩と水があるのだから何とかなる、とレオカディアは調味料が届くのを待って、唐揚げづくりに取り掛かることに決める。
「りょうりちょうに、とりにく、お願いしておかないと」
ぴょんと自室の椅子から飛び降り、レオカディアは厨房を目指して歩き出した。
「おねえしゃま!どこいくでしか?」
「りょうりちょうのところよ。いっしょに、いく?」
「いくでし!」
レオカディアの手にぶらさがるようにして手を繋ぐと、ブラウリオはご機嫌で歌を歌い出す。
「なにか、いいことあった?」
「おいしいもの!たのしみ!」
レオカディアが料理長の所へ行くと、美味しいものが食べられる。
そう思っているらしいブラウリオを可愛いと見つめ、レオカディアはエルミニオを思い出した。
 
エルミニオも、からあげをあげたら、こんな顔をしてくれるかな?
 
『おいしいよ!ディア!』
きっと、そう言って笑ってくれるに違いない。
そう思うだけで、レオカディアは、胸がぽかぽかとあたたかくなった。
 
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