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二十八、情報共有







「陛下へ報告に行く際にも、しっかり手を繋いでとは。いやはや、殿下のアギルレ公爵令嬢への溺愛度合いは噂以上ですね」


「そうか?未だ足らぬから、あのように考える女が現れるのではないか?」


「いえいえ。あの愚か者があのように考えるのは、飴の効果が出ていると妄信しているからですよ、殿下」


 国王へ、マグノリアのガゼボでの一件を報告しに行ったレオカディア達は、そこで、同じく報告に来ていたナルシソと行き会い、何となくの流れで退室した後も廊下を共に歩いていた。


「先生。あの飴に含まれている薬の含有量はどれくらいなのでしょうか」


「アギルレ公爵令嬢。ここは、学院ではありません。そして私は、子爵位を賜っている身です」


「・・・ガラン子爵。あの飴は、どれほどの影響力を発揮するのでしょうか」


 ここは学院ではないと言い、自分は子爵位を持っていると言う。


 つまり、学院外では先生と呼ぶなということだと理解したレオカディアが言い直せば、ナルシソは満足そうに笑った。


「あの飴に含まれている禁止薬剤の成分は、ほんの僅かです。ただ、ふたつ三つと食べていくうちに、依存性はどんどん上がって行くでしょう。無くてはならない物になって行く。つまりは、常習化するということです」


「ということは、あの薬、形は飴ですから、あの飴をくれる彼女にも依存しているということですか?」


「あの飴を有しているのは、彼女だけですからね。自然とそうなるでしょうし、そうなるように、ドゥラン男爵令嬢は動いていると思われます」


 真面目なのに、どこか飄々としている。


 そんな態度のまま説明するナルシソを、レオカディアは注意深く見つめた。


「ひとつ、気になる言葉を聞いたのですが。次のクッキーに進めると」


「次のクッキー?それは、ドゥラン男爵令嬢が言った言葉ですか?」


「はい。確かにそう聞きました」


 次のクッキー。


 それは、好感度が上がって来たら使えるアイテムなのだが、それはゲームでの話。


 実際はどうなのだろうと、レオカディアは考える。




 大体、その前段階の飴を学院では誰も舐めていないのよね。


 だから、次に進むも何もないでしょうけど。


 王城では舐めている人も居そうだし、それに、これまでの彼女の行動を見るに、(じつ)が伴っていなくとも進めていきそうな気がする。




「次なるクッキーですか・・・なるほど・・・ということで殿下方。次なる貢物はクッキーのようですので、ちゃんと受け取ってくださいね。もちろん、私も回収しますが・・・というわけで、ドゥラン男爵令嬢は牢から出します。不服かとも思いますが、これでまたひとつ、私が彼女に恩を売れていいかと」


「分かった」


「ガラン子爵・・・あの。あとひとつ、よろしいですか?例の薬には、依存性よりもっと凄い作用があったりしますか?」


 『それでは』とその場を去りそうになったナルシソにレオカディアが声をかければ、その黒い瞳が不思議そうにレオカディアを見た。


「依存性より凄い作用ですか?それは具体的に、どのような?」


(くだん)の侍女の態度が、その。具体的に言うと、ドゥラン男爵令嬢の言葉ひとつでとても・・尋常でないほどに喜んでいて・・ただ喜んでいるというより、その表情が・・・その」


「ぶっちゃけ、あの侍女はあのくそ女の下僕みたいってことです子爵」


「へ、ヘラルド」


 あっさりと躊躇い無く言い切ったヘラルドに、レオカディアの方がどきまぎしてしまう。




 い、一応ヘラルドだって攻略対象者なのに。


 ヒロインに対して好感度が上がるどころか、だだ下がり・・・っていうより、好感度なんて最初からゼロだったんじゃ、って感じ。




「確かに、あの態度は異常です。俺達が行った時も、侍女を庇うような発言をした妄想女のことを、恍惚とした顔で見ていました」




 も、妄想女って。


 セレスティノだって、攻略対象者。




「まるで、洗脳されているかのようでした。何も悪くないディアを悪しざまに言った女を、あのように崇拝した目で見るなど・・王城の侍女にあるまじき態度でした」




 エルミニオ様。


 そんな、汚物を思い出すような目で語るなんて。


 侍女はともかく、男爵家の彼女はヒロインなんだけどな。


 ・・・・・でも、私のこと信じてくれて嬉しいです。


 エルミニオ様。




「はあ。本当に愛されていますねえ・・・そして、愛してもいるんですねえ、アギルレ公爵令嬢」


「っ!」


 突然囁くように言われ、ぴくんっと飛び上がりそうになったレオカディアの前で、そうさせた当の本人であるナルシソは、かつてないほど真剣な表情で眉間に指を当てた。


「恍惚とした表情・・・下僕の如し・・・それは、薬の影響だけでは無いかもしれません」


「どういう意味だ?」


「殿下。殿下も仰っていた、洗脳です。暗示や催眠を、薬剤摂取と同時にかけている可能性もあるかと思われます」


 そして、この上ない真摯な表情と声で言った後、ナルシソはその表情を一気に崩す。


「とはいえ、純粋な信頼、愛情、尊敬ということも考えられます。殿下やアギルレ公爵令嬢のような例もあることですから。いやはや、人の感情とは摩訶不思議」


「ガラン子爵。揶揄うのは」


「ガラン子爵。僕のディアへの想いと、あの女に向ける侍女の不気味な表情を一緒にしないでくれないか」


 ナルシソの言葉に反論しようとしたレオカディアは、憮然とした表情で言うエルミニオの威勢に完全に負けた。


「・・・・・」


「さっすが、殿下」


「いつも通りの展開だな」


 そして、言葉無く立ち尽くすレオカディアの耳に、そんなヘラルドとセレスティノの声が聞こえ。


「くっ・・くくくくっ・・・なんというか、ごちそうさまです・・・くっくくっ・・くっ」


 陽の光に照らされて緑に輝くレオカディアの瞳には、耐えきれないと、腹を抱えて笑うナルシソの姿が映っていた。



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