二十五、ピア・ドゥランに味方する者
「ちょっとレオカディア!なんであんたがその腕輪してんのよ!あああああ!エルミニオの蝶の髪飾りまで!」
なんで、って。
私がもらったからだけど?
「黙ってないで、なんとか言いなさいよ泥棒娘!」
「名乗りも無い方から、いきなり泥棒呼ばわりされる覚えはないのですが」
言いつつ、レオカディアはさり気なくピアを観察する。
本当。
見た目はゲームのヒロインそのものなのに、この態度に口調。
違い過ぎて泣けてくる。
どうせなら、ゲーム通りの可愛いヒロインが見たかったけど。
ここはゲームではなく現実だということなのかしらね。
「それは、あたしが貰うべき物なの!返しなさいよ!」
「言っている意味が、分かりませんわ」
返せってなに?
この腕輪はブラウリオが、そして蝶の髪飾りはエルミニオ様がくれたものなのに。
ブラウリオは新緑祭ですずかげの箱に入れてくれて、エルミニオ様は『ディアが羽化した記念に』とか言って。
「レオカディア!聞いてるの!?それはあたしの!だから返して!」
『羽化した記念』と言った時のエルミニオの、はちみつ色に溶けた瞳を思い出し、ひとり赤くなりそうになっているレオカディアの背後で、王家の影が動くのが分かった。
わざわざ動きを読ませるようにしたということは、助けを呼んで来るから待てということなのだろうと、レオカディアは理解する。
学院内に、護衛や侍従、侍女を連れて入ることは出来ない。
しかし、王家の影はそこかしこにいて、エルミニオとレオカディアを密かに護っていた。
それこそ密かになので、滅多なことでは姿を見せないし、周りに知られてもいないが。
「何をおっしゃりたいのかよく分かりませんが、こちらは確かにわたくしがいただいた物に間違いありません。難癖をつけないでくださいませ。それから、わたくしの名を呼び捨てになさいませんように」
「ふん。レオカディアのくせに生意気よ。あんたは、静かに退場する役なのに」
それはそうなんだけど、私だって生身で生きているんだもの。
感情ってものがあるのよ。
・・・それにしても、腕輪と蝶の髪飾りをヒロインに贈るなんて話、あったっけ?
「だから、それはあたしに渡して。ほら、早く」
「お断りします」
「お断り禁止!」
無理にもレオカディアから蝶の髪飾りと腕輪を奪おうとするピアを避け、レオカディアはひとりで迂闊に歩いたことを悔やむ。
先生に呼ばれたのが刺繍の授業前だったとはいえ、誰かに付き合ってもらうんだった。
ああ、失敗。
すっかり仲良くなった、リモン子爵令嬢やバンデラ伯爵令嬢は残念ながらクラスが違うが、親しく話す相手がいないわけでもなかったのに、とレオカディアが思う間にもピアの手が襲い来る。
「それは、あたしのなんだってば!」
「いえ、これはわたくしがいただいた物です・・・あ。もしや、貴女もエルミニオ様から同じ品をいただいたことがあるのですか?それで、見間違えて」
「無いよ。あるわけないだろう。身内以外で、ディア以外の女性に品を贈ったことなんて、無い。僕を疑うなんて、酷いよディア」
背後からエルミニオの声が聞こえた、と思った時には、レオカディアは、既にその腕に守られていた。
え?
今、授業中。
「何故、殿下やブラウリオがレオカディアに贈った物を、自分の物だと言い張る?」
「今度騒ぎを起こしたら、謹慎じゃすまないって言われなかったか?」
授業中、確か今は嫡男が生まれてうきうきの師範の下、剣術の指導を受けている筈ではと思うレオカディアの前に、セレスティノとヘラルドも立つ。
「だって間違いなくあたしのなんだもん!それは、十回やったら新緑祭で貰える物なんだから!だから実際に貰えるって、楽しみにしてたのに!」
「はあ?十回?」
「何を言っているんだ」
ああ!
そういうこと!
疑問符を浮かべるヘラルドとセレスティノの声を聞きながら、レオカディアは心のなかでぽんと手を叩いた。
それは、ゲーム「エトワールの称号」で、十回同じ人物と最上級エンディングを迎え、もう一度初めから十一回目を始めると、その新緑祭で貰えるという品物。
十回も攻略していないうえ、セーブデータを使いまくっていた前世のレオカディアは、情報としてだけ知っていたため、理解が遅れたのかと納得した。
「ねえ。みんな、ちゃんと飴舐めてる?」
敵認定済みとばかり、ピアに鋭い目を向けるエルミニオ達に、ピアが不思議そうな声を出すも、エルミニオ達は答えない。
「飴」
代わりのように呟いたレオカディアに、ピアが勝ち誇った目を向けた。
「ふふん。レオカディアは知らなくていいことよ」
この中で、ピアから飴を受け取っていないのはレオカディアのみ。
それゆえ、ピアはレオカディアが何も知らないと思っているようだったが。
いや、私、説明受けているし。
まさかあの飴に、麻薬のように常習性のある薬が混入されているなんて、びっくりだったけど。
ゲーム内では、普通に好感度を上げるアイテムとして使用していた物が、危険な禁止薬剤を混入したものだと知った時は驚きに目を見開いたまま固まってしまい、誰も舐めていないから心配いらないと、エルミニオに抱き寄せられたほどだった。
そういえば、エルミニオ様に抱き寄せられるの久しぶりだったな。
子供の頃は、よくくっ付いていたけど。
あの頃とは違って腕や胸にも筋肉がついてきてて、なんか、やっぱり子供じゃ無くなって行くんだなって実感したな。
男らしい体になっていく・・・って、私ってば何を!
「悔しくって、声も出ないみたいね。レオカディア」
「家名でお呼びください」
咄嗟に言い返した時、静かな足音と共に大人の男性の声が割り込んだ。
「はい、そこまで。高位貴族と王族で取り囲んでは、ドゥラン男爵令嬢も委縮してしまうでしょう」
「先生!」
え?
なに?
こっちに非があるっていうの?
にこにこと笑みを浮かべているのに、瞳が笑っていない。
容姿が整っているだけに迫力が物凄い教師のいきなりの出現に、レオカディアは気を引き締めた。
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