二十四、ピアVSブラウリオ
「今年は、ねえ様に何を贈ろうかな」
呟き、平民街を弾むような足取りで歩いていたブラウリオは、多くの女性客が集う店の前で足を止めた。
「雑貨屋か。何が人気なんだろ」
『平民女性は、どんなものに興味があるのか知りたい』という、貴族としては変わった視点を持つ姉レオカディアのため、ブラウリオは早速潜入捜査としゃれ込む。
『平民の食や嗜好を知るのも大切』と言って譲らないレオカディアによって、アギルレ公爵領はこの数年で大きな発展を遂げ、益々豊かな領となった。
よほど愚かな領主が出ない限り、アギルレ領は末永く安泰と言われているが、次期アギルレ公爵補佐であるブラウリオは、その恩恵に甘えることなく、更なる発展を誓って日々実地教育にも励んでいる。
「みんなに人気がある品なら、ねえ様への贈り物にいいかも・・・って、え」
しかし、圧倒的に女性が多いなか、何とか近づいたその場に売られていたのは、ブラウリオにとって、とても見覚えのあるものだった。
「アギルレ公爵令息様。ようこそ、おいでくださいました。よろしければ、こちらへどうぞ」
「ああ。ありがとう」
呆然としているブラウリオに優しい笑みで声をかけると、店主と思しき男は店の奥へと進んで行く。
「あちらの品を見て、驚かれたのではございませんか?」
「そうなんだ。あれは、ねえさ・・姉上が作っていた物にとてもよく似ている」
『元はいい糸なのに、へぼな私に使われたせいで、まともな形になることも出来ず、本来の役目である敷物としては使えないなんて、悲劇でしょう?だから、生まれ変わらせてあげるのよ』
そう言いつつ、自身が編んだレース編みを折り畳み重ねて布と組み合わせ、ビーズをあしらって髪飾りを作っていた姉、レオカディア。
「お察しの通り、あちらの品は、アギルレ公爵令嬢が、先だって視察にお見えになった際、お着けになっていた髪飾りを元にさせていただきました」
「店主の判断か?」
「はい。それはもう、女性たちの目が輝いておりましたので。他の店に取られる前にと、先手を打たせていただきました。有難いことに、快く許可していただいたうえ、発案者へ実施料として支払う料金を、とても低くしてくださいました。お蔭様で、より安く提供することが出来ております」
店主の言葉に、ブラウリオはまたかと苦笑を禁じ得ない。
平民相手に商売をする時、レオカディアは自身の取り分を抑え、その分価格を安くすることを相手に約束させる。
『心の潤いって大事。だってね、健全なる精神が健全な体を造るのよ。私は、平民相手に荒稼ぎしようなんて思っていないし。持ちつ持たれつ、平和が一番』
その考えは、民衆と貴族の間が上手くいってこそ平和が続くという王家の思考とも一致し、利益を独占しないことで、貴族の間でも一定の支持を得ている。
「そうか。みんなの喜ぶ顔を見れば、姉上も喜ぶ」
「はい。新緑祭で、補助金を出すから街の活性化に役立てほしい、と言われた時も驚きましたが、アギルレ公爵令嬢は本当に民衆に寄り添った王太子妃となられると、皆期待しております」
すずかげの箱探しを街の行事として定着させる、という発案に最初は戸惑い驚いた平民側も、今ではすっかり街をあげての箱探しが定番の楽しみとなったと店主は笑った。
「余り物を入れるのではなく、引換券で、というのも人気でして、最近では店同士でもより喜ばせる物をという競争になっているのです」
各家で行うだけだった、すずかげの箱探し。
レオカディアは、そのすずかげの箱探しを街全体で行うことで、地域の結びつきと活性化を目指した。
それが今ではうまく運用されていると、ブラウリオも嬉しくなる。
「今年も楽しい祭りになるよう、祈っている」
「ありがとうございます。アギルレ公爵令息様も、よき新緑祭をお過ごしになられますよう、ご祈念もうしあげます」
そう言う店主に、丁寧に送り出されそうになったところで、侍従が何やら合図しているのに気づいたブラウリオは、店に入って話すだけで何も購入していなかったと、慌てて店内を見渡し、目についた腕輪をひとつ購入した。
「うん。なかなかいいかも」
貴族の夜会や茶会に着けていけるほどの質ではないが、普段使いにはよさそうだと思い、ブラウリオは、これをすずかげの箱から取り出した時のレオカディアの反応を想像して口元を緩める。
「ねえ様なら、絶対に喜んでくれる」
「坊ちゃま」
その時、にこにことするブラウリオと共に笑みを浮かべていた侍従に緊張が奔り、護衛も隙無く構えをとった。
「ブラウリオぉ!偶然ねえ!」
「・・・お知り合いですか?」
「いや。初めて会う筈だ」
小声で遣り取りする主従の前に立ったピアは、満面の笑みでブラウリオを見つめる。
「会いたかったよ、ブラウリオ!」
「失礼ですが、どちら様でしょうか」
ブラウリオは知らないというのに、まるで親しいかの如くに話しかけて来る怪しい人物。
そんなピアからブラウリオを守るべく、半歩前に出た侍従がピアに問いかけた。
「あたしは、みんなのピアよ!」
「「・・・・・」」
胸を張って言い切った、その自慢げな様子に、ブラウリオも侍従も思わず言葉を失った。
「もう、ブラウリオってば。『このひとが、自分の姉さんだったらよかったのに』って顔してる!まあ、分かるけどね。ブラウリオのお姉さんって、あのレオカディアだもんね。贅沢ばかりで領の事は何も興味が無いなんて、貴族の風上にも置けないもん。ブラウリオも苦労するね」
『まったく困ったお姉さんよね。無能なだけでなく、害を及ぼすなんて』とため息を吐くピアに、その場の全員・・ブラウリオと侍従、そして護衛までもが殺気立つも、ピアはまったく気づかない。
こいつ!
今、なんて言った!?
ねえ様が、貴族の風上にも置けない?
このまま、騎士団に連行してやろうか。
「でもね、ブラウリオ。みんな分かっているから大丈夫よ。領の人たちだって、嫌っているのはお姉さんのことだけで、ブラウリオの苦労は、ちゃあんと分かってくれてるから。だから、これ舐めて、挫けず頑張って。あたしも、応援してるから!」
しかし、護衛に捕縛を命じる寸前、ピアに差し出された飴を見たブラウリオの目が光った。
「じゃあね、またねブラウリオ!」
一方のピアは、飴を渡せたことで満足したのか、清々しい様子で去って行く。
「坊ちゃま」
「父上に報告して、この飴を鑑定に回す。恐らく、ぼくにこの飴を渡すのが目的だったんだろうから」
忌々しいが、今ここで騎士団へ連れて行っても、後にまた何か騒ぎを起こすかもしれないと、ブラウリオは冷静に判断して踵を返す。
「なに、今の女の子」
「男爵令嬢って言ってたみたいだけど」
「アギルレ公爵令嬢を悪く言ってたぞ」
「全然、事実じゃなかったけど」
すると、そんな街の人たちの声が聞こえて来て、ブラウリオはくるりとそちらを向いた。
「みんな!もし今あったことを証言してくれと言ったら、頼まれてくれるか?」
ブラウリオの呼びかけに皆は真剣な眼差しで頷き、自ら連絡先を伝え始める。
「ありがとう。その時は、よろしく頼む」
ふふふ。
あんなに盛り上がって。
みんな、あたしの話で夢中なのね。
でも当然よね。
他の三人同様、あたしとブラウリオもお似合いだもん。
・・・あ、もしかして。
ブラウリオってば、周りの人に、あたしのこと自分の恋人だって言ってたりして?
もう、早とちりのせっかちさん。
まあ、あたしの恋人のひとり、にブラウリオがなることは確定なんだけどね。
人々のざわめきを背に聞いたピアは、くふくふと笑いながら悦に入っていた。
いいね、ブクマ、評価、ありがとうございます。
矛盾点を訂正しました。
ブラウリオは次男です。
次期公爵はクストディオです。
クスト兄様、ごめんなさい。




