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十六、乖離した世界







「図書室で追加を希望されていた書籍は、これで全部かしら?」


 発注書を手に言うレオカディアに、セレスティノが笑顔で頷いた。


「ああ。それで全部だ」


「それにしても。皆、勉強熱心だな。これらの書籍は、学業というより、文官試験の際に必要なものだろう?」


 文官となるには、学院での成績も必要なのだから相当な努力だ、と言うエルミニオに、ヘラルドがため息で返す。


「ほんと。俺なんて、殿下たちと同じクラスでいるだけで精一杯だっていうのに」


 上司の出来が良すぎるのも大変だと、ヘラルドは大仰に肩を竦めて見せた。


「馬鹿を言うな。出来の悪い上司に付いた日には、要らぬ苦労が付き纏うんだぞ?そっちの方が嫌じゃないか」


「要らぬ苦労って、何だよ?」


「殿下たちが無能だと、その仕事は全部側近が肩代わりすることになる」


「え!?側近って、俺らじゃん!」


 セレスティノの言葉に、ヘラルドがぴょんと飛び上がる。


「ああ、そうだ。それだけじゃない。考え浅く事業に手を出して失敗したり、安易に投資して失敗したり、仕事もせずに贅沢三昧しようとしたりする奴らだっている」


 苦々しく言い切ったセレスティノに、ヘラルドが不思議そうに首を傾げた。


「セレスティノ?何か、やけに具体的じゃねえか?」


「すべて、うちの祖先がやらかしたことだからな」


 苦く口元を歪めて発注書を見つめるセレスティノの肩を、エルミニオがぽんと叩く。


「これからも、図書室を充実させて行こうな」


「殿下・・・はい」


 学院の図書室は、家計が苦しくともきちんと学びたいことが学べるように、蔵書が揃えられている。


 それは、王家が率先して整えているもので、今年の希望処理はエルミニオが在籍していることもあって、彼らに託されていた。


「よっし!お仕事終了!これから、鍛錬だよな!?」


「ディアは、刺繍?」


「今日は、レース編みです。エルミニオ様。でも、私。あんまり得意じゃなくて」


 初めて仕上げた衝撃の一枚を思い出し、レオカディアは顔を引き攣らせる。


「ああ。確かに、確かに」


「ちょっとセレスティノ!二回も言わないでよ!」


「いや。領地のことや、食に関することはあんなに有能なのにと思って」


 揶揄うように言ったセレスティノの目には、しかしレオカディアに対する確かな感謝があった。






『俺は、公爵家の人間だと言っても、碌に学べていないからな』


 ゲームでセレスティノは、ヒロインであるピアに向かってそう弱弱しく微笑む。


 ミラモンテス公爵領は、とても貧しく、公爵家としての矜持を保つことはおろか、子息であるセレスティノの家庭教師を付けることも出来ずにいた。


 そこでセレスティノは、その遅れを取り戻そうと、時間が許す限り図書室に通い、その豊富な蔵書に埋もれるように勉学に励んでおり、同じように男爵家では手に入れられないような高価な書籍を目的に来るピアと、親しくなっていく。




 しかし、今のミラモンテス領は、国で一位、二位を争うほどに豊かな領地となった。


 つまり、セレスティノが図書室へ通う必要も無い。


 それでもセレスティノは、図書室の存在意義を知った時、もしあのままの領であれば、自分にとっても必須であっただろうと推測し、そこに通う学友たちの姿を、他人事と捉えることは出来なかった。


「タイトルから難しくって、俺なんて見るのも嫌だけどな」


「それは無理だろう。殿下の側近なのだから、俺達には必須だ」


「うへえ」


 笑いながら言い合うヘラルドとセレスティノには暗い影など微塵も無い。


「エルミニオ様も、鍛錬頑張ってください」


「うん。ディアも、レース編み頑張って。いいんだよ、歪んでも編み目が不ぞろいで、大きな穴みたいになってしまっても」


「・・・・・絶対、上手になってみせます」


 エルミニオは、本気でそういうレース編みでもいいと言っているのは分かる。


 分かるが、それは何かプライドが許さないと、レオカディアはレース編み攻略を、強く誓った。




 とある日の王城。


 いつもの光景、なのだが。


 既に、ゲームとは大きくかけ離れていた。



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