十五、攻略対象は何処にいるのよ!? ピア視点
「ちょっと!どういうことなのよ!」
教師から呼び出され、探し物として届け出ていた人形を渡されたピアは、外へ出るなりそう叫んだ。
「待てど暮らせどエルミニオは来ないし、ヘラルドは裏庭に居ないし、挙句に人形は誰か他の人が拾っちゃうし!・・・もう!余計なことしないでよね!」
入学から三日である今日。
ここが「エトワールの称号」というゲームの世界だと知っているピアは、頃合いだと踏んで人形を廊下に放った。
『まったく。記憶が戻るのが遅かったせいで、あんな人形何処にやったか忘れてたし。てか、捨てずにいて良かったけど』
母とふたりの貧しい暮らし。
それに辟易していたピアは、実母の死をきっかけに、父であるドゥラン男爵に引き取られ、令嬢と呼ばれる身分となった。
『ずっとあたしたちを探していたなんて。母さんは、どうして意地を張ったのか、ほんと意味わかんない』
父の正妻である男爵夫人はとても優しい人で、薄汚い人形などいらないと言ったピアに、生みのお母様の形見なのだから、今はそう思うとも大事にしておきなさいと言うくらい、ピアの母への想いを大切にしてくれる。
「男爵家で贅沢出来るなら、そんな気遣い要らないって思ってたけど、攻略に必須だったなんてね。こんな粗末で汚い人形が」
言いつつピアは、その人形を指で摘まんだ。
「あーあ。ちゃんとやったのに、どうして来ないのよエルミニオ」
夕暮れの時計塔という、とても絵になる場面を待ち遠しく思っていたピアは、真っ暗になっても来ないエルミニオに不満を覚えた。
そして翌日になって、教師から人形を渡されたのである。
予想外もいいところだった。
「やっぱり、裏庭でヘラルドに会えなかったのが、いけないのかな」
人形を探し、エルミニオと出会うこのイベントは、ヘラルドとの出会いイベントでもある。
人形を落としたことに気付いたピアが、探しあぐねて昼食を摂った裏庭へ行くと、そこには秘密の鍛錬をしているヘラルドが居て、息を切らして現れたピアに胡散臭い目を向けるのだ。
『すみません!ここに、小さなお人形落ちていませんでしたか!?』
体の小さいことを気に病んで、騎士団での鍛錬を拒んでいるヘラルドは、闖入者であるピアを最初は敬遠するものの、人形を探しているのだと言った、その純粋でひたむきな瞳が忘れられず、翌日、人形が見つかっていないなら共に探すと言って昼食時に現れる。
人形は無事に見つかったけれど、良かったら共に昼食を、という会話からふたりは度々裏庭で会うようになり、ピアとの出会いがきっかけで、ヘラルドは騎士として強く成長していく。
「裏庭、行ったけどいなかったのよね、ヘラルド。また、チャレンジしてみればいいのかな」
ヘラルドに会うことが、エルミニオと出会う条件なのかと思い直し、ピアはひとり前向きに呟くと、手にした人形をぶんぶんと振り回した。
「あ、もげた」
その扱いに、元々脆くなっていた腕が飛んでしまうも、ピアは気にしない。
「ま、いいか。エルミニオと出会っちゃえば、用済みの人形なんだし」
ゲームでのピアは、母から贈られた人形がエルミニオと出会わせてくれた、と終生大切にするという文言があったのだが、ピアはそんなつもりは毛頭ない。
「エルミニオの恋人になって、王太子妃になって、それから王妃!何でも贅沢し放題!あたしの人生、楽勝じゃん!あー、最初は何を買ってもらおうかな」
エルミニオと出会えば幸せになれると、ピアは胸をときめかせた。
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