一、そは、青天の霹靂
「おねえしゃま。こえ、すっごくおいしいでし!」
「!!!!!」
未だ幼い弟、ブラウリオが可愛い笑顔でそう言った瞬間、レオカディアは雷に打たれたかのような衝撃を受けた。
「ああ。本当においしいね。レオカディアは、美味しいものを考える天才だ」
そんなレオカディアの前で、ブラウリオの口元を優しくぬぐっているのは、兄であるクストディオ。
ああ・・・ここって。
<エトワールの称号>の世界だったのね。
生まれて四年。
レオカディアは、現在自分が生きる場所が、前世に於いて楽しんだゲームの世界であると知った。
「それにしてもブラウリオ。えびのグラタンが、こうぶつだなんて、ゲームどおりなのね」
自室でひとりになってから、レオカディアは机に向かってペンをとり、ふむふむと頷く。
ゲームには、好感度を上げるアイテムが幾つか存在し、海老のグラタンは、ブラウリオ個人の好感度を大きくあげるものだった。
尤も、対個人のアイテムをゲーム内で使うには、それなりの好感度になっている必要があったのだが、流石きょうだいというべきか、ブラウリオは、あっさりとレオカディアが用意した海老のグラタンを平らげた。
「まあ、私が作ったわけじゃないけど」
今日、海老のグラタンが食べたいとねだったのは確かにレオカディアだが、もちろん自分で作ったわけではない。
何となく、こういうものが食べたい、と思いつき、料理長におねだりをしただけのものである。
「そっか。前世で食べていたから、食べたくなったのね。納得」
これまでも、じゃがいものオムレツなど、何故、そのようなものを思いついたのか、と言われても分からなかったが、これで納得とレオカディアは息を吐く。
「あれ?ということは、エルミニオはからあげが好きなのかな?」
齢四歳にして既に婚約者であるエルミニオは、この国の第一王子であり、後の王太子であり、ゲームに於ける攻略対象でもある。
ゲームの知識によれば、エルミニオは学院でヒロインの男爵令嬢にひとめ惚れし、めでたくヒロインと両想いになると、レオカディアとの婚約解消を望むようになるが、別に断罪することもなく、ただ自分の心変わりとしてきちんと話し合いをする好青年だった。
「エルミニオかあ。今は仲良しだし、ゲーム内でも好きなキャラクターだったけど、初対面で芋虫を見せられたのよね。あれは、半分気を失うくらい衝撃だったわ」
昨年。
エルミニオ、レオカディア共に三歳の時、同じくらいの年齢の子供ばかりを集めて行われたお茶会で、エルミニオはレオカディアだけを庭園の片隅にある小屋へ連れて行き、そこで緑色の芋虫を差し出すという蛮行に及んだ。
「よっぽど嫌われたのだと思ったけど、その後は、すっごく優しいのよね。可愛いし」
芋虫以外は意地悪など一切無い、むしろ年齢を思えばとても思いやりのある優しい子だと、レオカディアはエルミニオを思い出す。
「いずれヒロインに惹かれるにしても、今は未だ子供だし、私も断罪される悪役令嬢じゃないから、安心よね。婚約解消になるのは、まあ、ちょっとだけ残念だけど」
自分も家も無事なら、まあいいか、とレオカディアはペンを置いた。
ありがとうございます。