0x00 Prologue before power-on
「おとーさん、これは、なに?」
「これはな、パソコンって言うんだ」
ある日家にやって来た、パソコンという機械。
おとーさんと、おかーさんの会社が作った機械が入っているというその箱は、色々なものを与えてくれた。
ある時には、言葉を失うほど美しい異国の情景を映すテレビを。
ある時には、思わず立ち上がってしまうほどわくわくする物語の主人公になる道具を。
そしてまたある時には、想像を形にするカンバスを。
その機械は、幼い僕にとって紛うことなき夢の機械だった。
でも、そのワクワクは長くは続かなかった。
もう少し成長した頃、母さんが会社に行けなくなった。
体調が悪そうに臥せていることが多くなって、何も出来ないのが子供ながらに辛かった。
それと時期を同じくして、父さんが帰ってこなくなった。
いままで住んでいた関東から、母の実家のある会津若松へと引っ越しもして。
そんな家庭状況の激変で、僕は夢を見る余裕を失った。
幼心に、それは父さんと母さんが作ったこの機械のせいだと信じ込んで。
父さんを消し、母さんを倒れさせた悪魔の機械。
それが、僕から見たパソコンの姿になった。
そしてある日、母さんも居なくなり。
僕には、ただ不条理さと悲しみだけが残された。