再会
死んだ大事な人に会える。そんな言葉につられて多くの人々がこの崖を訪れる。ここに来る人間は皆生気を失っており、心ここに在らずといった顔をしている。
無理もない、大切な人を失ったばかりの者たちなのだ。ここの噂を思い出したか調べたか、はたまた人づてに聞いたのか、皆ここへ足を運ぶのだ。
この男もその1人。先週妻を亡くしたばかりだ。その妻はまだ29歳と若く、そろそろ子どもを考えようかという時に交通事故で亡くなってしまった。
「ううう、恵美子ぉ」
涙に濡れたくしゃくしゃの顔の男が、絞り出すような声で妻の名を呼んでいる。
男は妻に会いに来たが、もし会えなかったらこのまま死ぬつもりでいる。この崖は自殺の名所でもあるのだ。
さて、死んだ人に会えるとはどういった意味なのだろうか。大切な人が霊になって会いに来てくれるという話がある。昔から水場と霊は深く関係していると言われており、それを信じている人間は多い。
また不謹慎ではあるが、この崖から飛び降りることによって、あの世で大切な人と再会出来るということだと言っている者もいる。
これらは全て噂程度の情報なので真偽の程は定かではないが、皆小さな希望を求めてここに訪れているのだ。
男は崖の上に立ち、水面を覗くと、そこには先週亡くなった妻の姿があった。水面に映る自分の顔の後ろに、間違いなく妻の顔が見えたのだ。男のくしゃくしゃな顔はさらに乱れ、止まりかけていた涙も溢れ出した。
「き、奇跡だ! もっとよく顔を見せてくれ!」
男は身を乗り出し、水面に映る妻の顔を見つめ続けた。妻はにっこり笑うと男の肩に手を置き、その両の手を男の胸あたりまで滑らせた。
「温かい⋯⋯」
背中に妻の温もりを感じながら、また涙を零していた。
「ああ、恵美子⋯⋯」
男はそう言いながら振り返った。背後に妻の姿はない。水面に映った笑顔も、背中に感じた温もりも、全て幻だったのだろうか、と男は思い、神への不満をこぼす。
「神様もそこまで優しくはないか」
「いいえ、すぐに会えるわよ」
水面から妻の声が聞こえたかと思うと、急に背中が重くなり、男はバランスを崩してしまった。
ホラーになるとありきたりな話しか書けなくなるのはなぜだろうか(;´・ω・)