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偽善屋  作者: 乃ノ八乃
case 1 前時代の暴君
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case1 前時代の暴君⑦

 

 変装しての情報収集を終えた日の夜、再びビジネスホテルにチェックインした二人は成果をまとめ、次への話し合いを進めていた。


「今日の情報収集は思いの他上手くいったねぇ」

「そうね。なんというか、少し聞いただけでべらべら喋ってくれたわ」


 結果として今回の情報収集は期待以上の成果だった。


 その理由としてはやはり容姿と距離感の違いだろう。


 昨日の収集は碌な情報が得られなかったが、今日だけで最早必要ないほどの量と質のものを手に入れる事ができた。


「これなら二日後までにアクションを起こす必要もないし、()()の用意に時間を割ける」

「だねぇ……ま、後は簡単に設定を覚えて待つとして、適当に資料も用意しないと……」


 交渉を成功させる事が目的ではないとはいえ、恰好だけでも用意する必要がある。


「それなら初日の内にやっておいたわ。プリントアウトはまだだから空いた時間でしておいてくれる?」

「流石助手ちゃん、仕事が早いね。了解、明日中にはやっておくよ」


 ほとんどの準備を任せきりなのはどうなのかと思うが、それでも優秀な助手がやってくれるのだからと先生はその辺りを割り切っているらしい。


「それじゃあ、時間もある事だし、今日はこの辺にして休みましょうか?」

「ん、そうだね。じゃあ、俺は自分の部屋に――――」


 その言葉に同意し、先生が立ち上がったその瞬間、助手が袖を掴んで引き留める。


「……なにかな、助手ちゃん?」

「……残念だけど、今日はこの部屋しか取ってないの。大丈夫、ベッドも二つあるから、ね?」


 嵌められた、そう気付いた先生だったが、すでに遅い。


 何の気なしに受付を任せたのがそもそもの失敗、まさかこんな罠を仕掛けてくるとは思わなかった。


「……それじゃあ俺は例の資料をプリントアウトついでに近くのネカフェに行ってくるから」

「あ、ちょっと、待っ――――」


 とはいえその罠に乗るわけにはいかないと、その言葉をスルーしてドアまで移動し、明日中と言っていた資料のプリントアウトを理由に迫る助手から逃げるように部屋を去る先生。


「…………また逃げられた」


 その後ろ姿を助手が残念そうに見つめていたのは言うまでもない。




 そして偽の交渉当日、スーツをぴしっと着こなしてターゲットの会社に向かう二人。


 この日の目的は交渉と偽って社内に潜入、盗聴器、並びに監視カメラの設置だ。


 これはいわゆる証拠を集めるためのものではなく、この後に控える仕上げのために設置するもので、違法性はともかく一番合理的な方法だった。


「――じゃあ、打ち合わせ通り、それぞれ隙を見つけて発見されづらい場所に設置するって事で」

「了解。まあ、見つかったらそれまでだけどね」


 小声で会話をかわしながら案内に従い、応接用のオフィスへと案内される。


「……さて、一仕事しますか」


 口の中で小さく呟いた先生は表情に営業スマイルを張り付けて偽りの交渉へと向かっていった。




――――つつがなく偽の交渉は終わり、社内の様子を少し見学したいという要望もあっさりと通ったおかげで当初の目的であった盗聴器と監視カメラを存分に仕掛ける事ができた先生と助手は足早にターゲットの会社を後にする。


「――ずいぶんとあっさり社内の見学を許したわよね、普通ならもっと渋ってもいいようなものなのに」


 交渉の相手は依頼人の話していた人物とは違っていたが、それでもあの内情を知らないわけがない。


 にもかかわらず、バレるリスクがあるかもしれない他社からの見学をあっさり容認した事を助手は疑問に思っているらしい。


「それだけ社員に隠蔽工作を徹底してるってことでしょ。でないとこれまでのどこかで摘発されてるだろうし、ネットの工作を考えれば当然だと思うよ」

「……それもそうね。よくよく考えれば交渉の席で見学を渋って心象を悪くするのは企業としてアウトだもの」


 事前に調べた範囲ではこの会社の業績自体は悪くない。


 つまり、内情を上手く隠して交渉する術がこの会社にはあるという事だ。


「……あの手の輩は無駄に外面を取り繕う事に長けてるからねぇ。ま、俺達には関係ないけど」

「ええ、じゃあ早速、プランを練りましょうか」


 情報と材料は出揃った。


 会社がどうだとかは彼ら〝偽善屋〟にとってはもう関係ない。


 後はそれを元に依頼に取り組むだけなのだから。


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