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偽善屋  作者: 乃ノ八乃
case 1 前時代の暴君
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case1 前時代の暴君⑤

 

 初日の調査を終え、取っていたビジネスホテルにチェックインした二人はこの日、収集した情報をまとめていた。


 あのあと喫茶店での観察を打ち切り、分かれて調査をする事にした先生と助手は会社の関係者に接触しないという条件の下、それぞれ情報を集めたのだが、そこから見えてきたのは例の会社のまともではない部分だった。


「━━あの会社、例の上司以外にも役職連中はパワハラのオンパレードだったみたいだね」


 情報をすり合わせた結果を見た先生が特に感情もなく呟く。


「みたいね。全部が全部そうとは言わないけど、間接的に調べただけでもわかるくらいには横行してるわ」


 うんざりした顔でそう言った助手は大きなため息を吐いて座っているソファにもたれかかった。


「ま、結局分かったのは依頼人の話が本当だった事と思っていた以上に会社の中身が腐ってた事だね」

「……まだ初日だし、それだけ分かっただけでも十分だと思うわ。というより先生だって元々そのつもりだったでしょう?」


 疲れも相まって少しむっとしながら言い返してくる助手に先生は肩を竦める。


「確かにそのつもりではあったけど、この様子だとアポを取った三日後まで碌な情報が得られそうにないからねぇ……」

「……関係者に接触できないんだからしょうがないじゃない。データの方から調べようにもそっちの専門ってわけじゃないからあれ以上調べようがないし」

「そうだよねぇ……こりゃもう少し方針を考えるか……」


 話を聞き回った結果、噂になって怪しまれても困るからと接触を避けていたが、情報の少ないまま依頼を進めるわけにもいかない。


 架空の取引の内容自体は詰めているので問題はないものの、それは過程に過ぎず、肝心の依頼達成のためにはそれ以外のアプローチが必要だ。


「よし、それじゃあ明日からの調査は関係者への接触ありにしようか」

「えっでもそれだと顔バレのリスクが……」


 今日一日、そのリスクを回避するため遠回りに調べていたのはなんだったのかと言いたげにしている助手に対して先生はまあまあと言い含める。


「もちろん、対策はする。今、俺達の格好は取引するためのもの、だから全く別の装い、雰囲気もガラリと変えて接触する事にすればリスクなしとはいかないまでも、バレにくくなる筈だ」

「……それはそうかもしれないけど、そこまで変えるとなると容易じゃないわ。どうするつもり?」


 人間というのは見ていないようで時々、鋭い直感を働かせて物事を判断する場合がある。


 そういった類のものまで誤魔化そうと思えば、中途半端な変え方では効かない。


 それこそ別人になる勢いでなければならないだろう。


「どうするってそりゃ()()に頼むよ。明日の朝一で」

「……高くつくわよ?」

「それは仕方ないね。依頼のために必要な事なんだから」


 その道のプロに頼めば確実だろうが、当然ながらその技術の高さ故に料金は割高だ。


 二人分頼めば当初想定していた予算を超える事は想像に難くないというのに先生は何の躊躇いもなくそう言ってのける。


「……言っても先生は聞かなそうね。わかった、ならそれも予算に組み込んで計算し直すわ」

「悪いね。一応、この後は予算に気を付けるよ」

「……はいはい、期待しないでおくわ」


 助手は手をひらひらさせながら予算を再計算すべくパソコンに向かいかけ、ふと顔を上げた。


「━━予算の話でいうと、このホテルの部屋も二部屋取る必要はなかったんじゃないかしら。どうせこうやって一緒に作業するんだし、寝るだけなら一部屋でよかったでしょう?」


 ホテル自体は安い場所を選んだものの、予約をする際、先生が二部屋取る事を頑として譲らなかった。


 その時は予算にも余裕があったため、良しとしていたが、こうなってくると話は別、少しでもお金を浮かせばよかったと思い、助手は先生へと詰め寄るように尋ねる。


「……流石に同じ部屋で寝るわけにはいかないでしょ。助手ちゃんも年頃の女の子なんだから」

「今更じゃない?普段から同じ屋根の下で暮らしてるわけだし……」

「それでも同じ部屋で寝てるわけじゃない。だからその辺はきちんとしないとね」


 髪を耳にかけてさらに距離を詰めてきた助手から身を引くようにするりと立ち上がり、「飲み物を買ってくる」と言って出て行ってしまう。


「私なら全然気にしないのに……」


 出て行った先生の背中を見つめながら助手は残念そうに呟いた。


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