森の中
森の中には何がある
蔦の絡まる忘れられた図書館
土に還る日も近い子どもの遊具
草に隠れた小さなベッド
そこに誰かがいたあの日の幻
それを抱いて眠るぬいぐるみ
夕餉の香りは遠く
立ち上るはずのいく筋もの煙突の煙も
もはや大気が微かに覚えるのみ
朽ちていく日を待つ暖炉
そこに残された大鍋は
テーブルを彩る温かなスープとパン
卵やベーコンに花を添えて
家族が集まる夢を見る
それは遠い日の夢
いつかどこかで
どこにでもあった夢
柔らかな遠い記憶
森の中には何がある
崩れかけたいくつもの家
雑草に覆われた広場
歌うのをやめた噴水
獣道となった大通り
何も売るもののない店の跡
そこを風とともに駆け抜ける
形のない精霊たち
あなたを待っている
帰るのを待っている
人が思い出すその日を
森の中で じっと