あとは生産職見習いの意地でなんとかせい。
「魔道具や道具作りかぁ…将来設計がしっかりしてて良いねぇ。今は、何か作りたいものってあるの?」
「山ほど作りたいものがあって困ってるくらいだけど、販売目線で言えば、敷物やシーツなんかの大きな洗濯物を洗える、洗濯桶の魔道具が最優先かなぁ。何かいい案ない?」
「洗濯桶かぁ…あのさ、ぐるぐる水を回すのって魔道具で出来る?」
「うん。動くは動くんだけど…洗いと脱水とを合わせると、どうも上手くいかなくて…」
「だったらさ、二層式にしちゃえば?それなら洗いと脱水を合わせなくても、単体で作動させられるんじゃない?汚れ物も漬け置きできるし、どうかなぁ」
「ニソウシキって何?」
「あ、知らないか。洗いと脱水を別の桶に分ける感じなんだけどさ…」
うちの実家ではね、昔使ってたっていう二層式洗濯機を庭に出して、汚れ物の洗濯に使ってたから知ってたけど、知らない人も多いよね。高校生だし…。
庭にしゃがみこんで、土に枝で図を描いて説明する。
残念画伯だけど、こういうのは蝙蝠よりは上手く描けるんだから…。
使い方の説明に…注水口の切り替えなんかも説明しないとね。
確か、洗濯槽が小さければ小さいほどモーター回転が強く作用して、洗浄力が高くなったはず。
動力源が魔石でも同じ事かもしれないから、試してみる価値はありそうだよね、なんて話してみる。
「なるほどね。二層にするか…うん…魔石の消費量が違ってきそうだな」
「魔石の消費量…じゃぁさ、ハンドルをつけたバージョンもどうかな」
「ハンドル?」
「自分で水流を作れたら良いと思わない?手動でも魔石使用でもどっちでも使えるようにしておけば、あんまり汚れてないもので少量なら手動で、大型の洗濯は魔道具で、とか…使い分けができないかなって」
手動と魔石の使い分けできる道具って所に、ケモ耳ピコピコワンコが食いついてきた。
ただの可愛いかよ…。
出来るだけ魔石の消費量を少なくして、より多くの家庭に導入してもらえるような魔道具にしたいんだって。そうだよね…魔石は高価だもん。
一般家庭に普及できれば、洗濯に取られる時間も大幅に減らすことが出来るし、家事が圧倒的に楽になるんじゃないかって…そういう普通の生活をしてる人達がちょっと楽できるような便利な生活道具や、生活魔道具をたくさん作りたいんだって。
私よりずっと大人だった。
私はまだ小さくて力がない。洗濯当番がまわってくることはないから自分の下着を洗うだけだけど、年長の子供達やお手伝いに来てくれているご婦人方が、シーツなんかを洗濯してくれている姿はよく見かける。
バスタブに漬け置きしてた洗濯物が、重くて洗濯機まで運べなかったことがあるからわかる。水を吸った洗濯物の重さ。あれを川でやると考えると本当に大変だと思うんだよ。
だから自分だったらこうしたいああしたいって、アレコレ話しまくっちゃった。
異世界に来て洗濯ネタで盛り上がるってどうよ、なんて思いつつ。
ま、いっか。異世界の家事が少しでも楽ちんになるならそれでいいよね。
もちろん形にするのはアギーラだから、私はアイデアだけ言いまくって丸投げよ!
あとは生産職見習いの意地でなんとかせい。
「二層式…これ、いけそうな気がする。もし実現したら、開発者としてベルにもグーチョキパの一部を支払うよ。あ、グーチョキパってわかる?権利関係の」
「わかるけど、貰えないよ?だって私、何にも作ってないもん」
「ダメだよ。仕事で知り合った人に言われたんだ。アイデアは大事にしないとダメって。それにお互い損をしない関係を築けるのが一番なんだ。生産職としてやっていくには、ここは大事な一線だから譲れない」
きっぱりとアギーラに言われてしまって反論できない私。
地球産のパクりをアイデアと言って良いのかって言ったら、それは僕も同じって返された。
「道具じゃないんだけど…洗剤の開発もしたらどう?洗濯桶を魔道具にするなら絶対あった方が良いと思うんだ。ほら、固形石鹸しかないでしょ?粉末か液体か…できないかなぁ」
「あ、そっち方面は考えてなかった!確かに…欲しいかも!!」
桶が大型になればなるほど、固形石鹸を削って使うのは面倒臭い気がするのよね…そう言えば、そもそも洗濯桶なんて、家に設置できる場所があるのかなぁ?給水と排水がいるし…。
「一般家庭のお家を見たことがないから、よくわからないんだけど…家に設置できるの?」。
「ぐぅぅ…痛いとこついてくるね…。もしホースが出来れば、風呂場に一応は設置可能かなぁって思ってるけど、現実的には家の外になると思う。あとは配管の事も考えないと…」
置き場に関しては問題山積みって感じだなぁ。
「あ!コインランドリーなんてどう?洗濯桶が家に置けなくても、シーツの丸洗いなんかを持ち込みで出来るようになれば、随分家事負担が減ると思うんだけど。値段設定次第では需要があるんじゃないかなぁ。魔道具でどの程度まで脱水できるかにもよるけど…もし乾燥までサービスできれば、絶対いけると思う」
どうしても忙しい時って、あるでしょ?そういう時にコインランドリ―的な所があったら嬉しいなって。
働きながら家族分のシーツやなんかを手洗いするのとか…すっごく大変そうだからさ。
もちろん一人暮らしの家事が苦手な人とかにも良いよね。需要がありそう。
アギーラがめちゃくちゃヤル気になってるから、もしかしたら素晴らしい洗濯用道具が出来るかもしれない。コインランドリーもね。乞うご期待だよ。
まぁその大きな野望はともかく…アギーラとの共同開発品として、馬車のシート用カバーと粉末か液体の洗剤を作っていく方向で話を進める事になったんだ。
あんまり長くは話せないので今日はここまで。
建物に戻る間は、この世界にある食材で作れそうなもの縛りで、食べたいものの話になった。
アギーラは断トツでルコッコを使っての鶏風唐揚げが食べたいらしい。
わかる~。私も食べたいもん!
でもさ、作れそうじゃない?私は孤児院生活だから無理だけど。
油はそんなに高級品って訳でもないみたいだし。
って思ったら、アギーラはあんまりというか、全く料理が得意じゃないらしく、唐揚げの作り方がわからないんだって。
もし大失敗してお世話になってるお家の台所が吹っ飛んだら怖いってさ。
いや、油で揚げるだけだから吹っ飛ばないでしょ…って思ったけど、まだ高校生だもん。
料理が得意じゃない子が、異世界で急に揚げ物に挑戦するのは怖いかもね。
「油と海塩とルコッコのお肉を持ってきてくれたら、作ってみるけど?」って言ってみる。
ただし、交換条件付きでね。ぐふふ。




