チョロイな…自分。
バザーの数日後、さっそく孤児院へ面会にやってきた、アギーラさんこと滝ノ宮明さん。
大会の司会をしていた時にも、お姉さま方が「可愛い可愛い」って騒いでたけど、どうやらご婦人方からもちやほやされている模様。
ジローーー。
ロマンス詐欺師疑惑、深まる。
なーんて。ちやほやされていたのは、なにやらたくさんの寄付品を持ってきてくれたかららしい。
いや、ご面相も一因だとは思うけどね。
持ってきてくれたのは自分が発明したという、洗濯板とシャワーヘッド。
すごい組合せの寄付だけど、なんでもシャワーヘッドは浴室の蛇口に取り付ければ、水量が大幅に減るんだそうで、ひいては魔石使用量も削減できる優れモノ。
もちろん洗濯板もご婦人方が小躍りしながら受け取っている。
アギーラ懐柔、一号二号三号…。
でも正直、洗濯板は何枚あってもありがたい。
お手伝いに来てくれてるご婦人方の洗濯作業が、少しでも楽になるなら嬉しいもん。
私がバザーでゲットした洗濯板も、孤児院に寄付して使って貰おうと思ってたら、アギーラさんがたくさん持ってきてくれたお陰で、私個人の持ち物にする事ができた。
少しずつ自分だけの持ち物が増えていくのが嬉しいのよね~。
アリー先生に既存の蛇口を外せばすぐに取り付けられるって話をして、取り付け許可を得てから、とりあえず一つだけつけてもらう。
あ~、シャワーだ…懐かしい。
固定式だけど、紛れもない…これはシャワー。
みんなはもちろん初めて見るから、雨が降ってるみたいだの、髪が洗いやすそうだの、なんだかんだのって大喜び。
院長先生まで出てきて、アギーラさんから説明を聞いている。
魔石の節約に繋がるくだりで、院長先生もコロっと懐柔。
仲良く二人でシャワーヘッドの残りを取り付け始めた。
当の本人は「今日は様子見にって思って、ちょっとしか持ってこなかったから、足りない分はまた今度持ってきますね」とか何とか言って、次回の訪問をしっかり印象付けている。
洗濯板の魔道具バージョンは、使用していくとどうしても魔石分のお金が発生してしまうからって、道具版の方を沢山持ってきてくれたらしい。
…気も遣える奴ときたもんだ。やっぱ詐欺師…。
さっさと馬の鞍用クッションパッドの分配率を決めると、ありもしない共同開発の発明品の件を話し合う為と言って、庭の隅に二人して移動した。
まずは二人で年齢の事とか関係なくタメ口&呼び捨てにすると決めた。
日本ではすごく年上だけど、こっちではすごく年下。
色々考えるのが面倒くさくなってきたし、時間ももったいないしね。
日本語みたいに敬語がないから、敬意を表現するには丁寧な言い回しをするしかない。まどろっこしくて、文字数マシマシなもんで時間がかかるの。
まずは転生や転移の際の記憶の話をしてみる。
残念な事に、二人とも『なんか光った』的な話しか出来ないというショボさだった。
…これはあれだな。話しても時間の無駄ってやつ。
「魂だけ転生して、本当のベルちゃんの体を借りてる状態だって言ってたよね」
「そう。だからもしベルちゃんの記憶から、アギーラの事が急に消えちゃったりしたらごめん。その時は成仏したと思ってよ」
「うん…。僕からも一つ。そんな大事な事を教えてもらっといてフェアじゃないから」
「え…なになに?」
「僕、獣人じゃないんだ」
「え?人間?」
「違う違う。精霊…妖精なんだって」
「へ!?」
「クー・シーっていうね、犬の妖精らしい」
「ようせい…」
「びっくりでしょ?未だに…僕も信じられないんだけど」
妖精になったせいかどうかはわからないけど、本来の自分より、かなり自由な性格になっちゃったらしいの。
もともとのアギーラの性格を知らないから何とも言えないけど、本人が違和感を感じてるらしいから、きっとそうなんだろう。なんか不思議な話よね。
本来なら完全な犬型の妖精らしいわよ。
転移者が妖精…そういうパターンもあるのか…
◇◇◇
今日はとにかく、何個か共同発明品を捻り出そうって話になった。
連名で何か発明品を出した方が、今後も面会しやすくなるからって。
アギーラが袋から、ごそごそと魔獣の毛皮を取り出した。
「あ!ビックなんちゃらの毛皮だ!すごいたくさん…い~な~」
「欲しいなら、いくらでも持ってくるよ?」
「くれるの?」
「沢山持ってるからさ」
「実はクッションカバーは持ってるけど、中綿がなかったから…少し貰えると嬉しいなって…。あ、そういえば毛皮のクッションってアギーラの発明?この毛皮が共同発明品と関係してくるって事?」
「両方ともイエス。ねぇ…鞍用のクッションパッドってあったでしょ?あれってもしかして、ベル考案だったりする?」
「当たり!でも外部には覆面発明者だからよろしく」
「良かった!そうだと思ったんだ~。え?覆面?あぁ…まだ小さいもんな」
「うん。だから、契約なんかも先生が全部してくれてるから、色々決まったら先生に話してもらった方が、諸事つつがなくって感じ」
「なるほどね、了解了解。鞍のクッションパッドをベースにさ、馬車のシート用カバーが出来ないかなって思ったんだけど…どう思う?」
「馬車のシート?あぁ、辛いらしいねぇ」
以前読んだ冊子、『紳士の嗜み』の『馬車乗降エスコート講座』にも、女性が辛くて動けなくなるって書いてあったって話をしたら、何故か異常に食いついてきた。
アギーラも馬車には苦労したんだって。
鞍用のパッドがしっかりとフィットしたところに目をつけたらしい。
馬車のシートに、ぴったりと取り付けられるカバーを共同開発しないかって。
よく使われてる馬車の寸法や内部の詳細が書かれたメモを貰ったので、寸法通りに一度作ってみると請け合った。
「今日持ってきた毛皮はベルにあげるからね」
「え!こんなに?」
「うん。多分、ベルが考案したんじゃないかとは思ってたけど、確信はなかったし…中綿見本があった方がカバーを作りやすいかなって思って、ちょっと持ってきただけだから。出来そうなら、次回、馬車用の分量で毛皮を持ってくるよ」
こうして私もアギーラにあっさり懐柔されてしまいましたとさ。
チョロイな…自分。




